日本映画

映画レビュー「嗤う蟲」

2025年1月23日
都会から過疎の村に移住してきたカップル。憧れのカントリーライフを楽しもうとする二人の前に、村の掟が立ちはだかる。

恐るべきムラ社会

都会から山奥の村に移住してきた若夫婦。脱サラした上杉輝道は無農薬農業を始め、妻の長浜杏奈はオンラインでイラストレーターを続ける計画だ。夫婦別姓なのは、妻の仕事上の理由から。いかにも今風なカップルである。

都会の喧騒から逃れ、憧れの田舎暮らしをエンジョイするはずだった二人。だが、村の不条理な掟が彼らの希望を打ち砕く――。

過疎化が進む村として、二人の移住は有難いことである。実際、自治会長の田久保をはじめ、村人たちは輝道と杏奈を大歓迎する。

しかし、それも村の掟に従うことが前提だ。誘いを断ろうものなら、たちまち不機嫌となり、容赦ない制裁を加えてくる。

村で生きていくには、掟に従うほかない。二人は文字通りムラ社会への順応を余儀なくされる。

ただし、輝道と杏奈とでは、順応の仕方に明らかな差がある。無農薬栽培に見切りをつけ、田久保のアドバイスどおり農薬散布にシフトする輝道は、よく言えば柔軟、悪く言えば付和雷同。対して、杏奈は不合理なことに敏感で、同調しているように見えても腹の中では逆らっている。

輝道が田久保にへつらう態度を強めるに従い、杏奈は輝道への不信感を募らせていく。村への移住が、それまで潜在していた二人の心のギャップをあぶり出していくのだ。本作の見どころの一つと言ってよいだろう。

また、村を牛耳り、輝道・杏奈夫婦を苦しめる田久保は、一見すると悪役だが、見方によっては頼りになるリーダーでもある。この点も、本作の面白いところだ。

村は過疎化で存続の危機に瀕している。その中で、杏奈の妊娠を期待し、出産すれば村民挙げて大騒ぎするのは当たり前かもしれないし、能力に欠け役立たずの男を虐げて、代わりに有能な輝道を重用することは、村のためという視点からは必ずしも間違ったことではない。

クライマックスにつながる村の秘密にしても、存続のためにはやむを得ないところがある。恐怖や暴力にあふれる本作ではあるが、決して単なるホラーでもスリラーでもないのである。

そして、本作に描かれたことは、この村に特有の奇想天外な物話ではなく、われわれが住む町や、通う企業、学校などにも共通する話だということも忘れてはならない。ムラ社会は、どこにだってある。この映画は、だから怖いし、面白いのだ。

映画レビュー「嗤う蟲」

嗤う蟲

2024、日本

監督:城定秀夫

出演:深川麻衣、若葉竜也、松浦祐也、片岡礼子、中山功太 / 杉田かおる、田口トモロヲ

公開情報: 2025年1月24日 金曜日 より、新宿バルト9他 全国ロードショー

公式サイト:https://waraumushi.jp/

コピーライト:© 2024映画「嗤う蟲」製作委員会

配給:ショウゲート

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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