日本映画

映画レビュー「銀平町シネマブルース」

2023年2月9日
かつて青春を過ごした町に帰ってきたワケアリの元映画監督。従業員や常連客とともに、傾いた映画館の再生に奔走する。

全編にあふれる映画愛

銀平町に一人の男が帰ってきた。元映画監督の近藤猛である。親友だった助監督の自殺がきっかけで映画界から離れ、学生時代を過ごしたこの町に戻ってきたのだ。

借金で家を失い、妻とも別れ、いまや一文無しの身。たまたま映画館「銀平スカラ座」の支配人・梶原と出会い、同館で住み込みのバイトをすることになる。

バイト仲間の足立エリカと大崎美久、売れない役者の渡辺、売れない映画ライターの那須、ミュージシャンの白川、中学生の川本、そして気のいいホームレスの佐藤。スカラ座には三度の飯より映画の好きな常連たちが集まっていた。

とは言え、映画館の経営は楽ではない。おそらく多くのミニシアターがそうであるように、支配人の梶原は多額の借金を抱えている。本来は近藤をバイトに雇っている場合ではない。

しかし、そんなことは先刻承知。困っている人間を放っておけないのが、梶原のいいところ。根っからのお人好しなのだ。そんな梶原の人柄に惹かれて通ってくる客も多いようだ。

そういった常連客のためにも、映画館を盛り上げなければならない。ということで、出てきたアイデアが60周年記念イベント。

新人監督の谷内由里子が持ち込んだ初監督作品の上映をはじめ、さまざまな企画を用意し、起死回生を図る。果たして、スカラ座は往年の賑わいを取り戻せるのか。そして、近藤は映画監督として再出発を果たせるのか――。

イベントに向けて、劇場スタッフや常連客たちが一つになる。映画を愛する者たちが団結する。全編に映画への愛があふれる作品だ。映画と映画館を愛する人々へ向けた、映画讃歌。

河童の着ぐるみ姿が愛嬌たっぷりな渡辺役の中島歩、映画ファンとして理想の最期を遂げる佐藤役の宇野祥平、粋な映写技師・谷口役の渡辺裕之(本作撮影後に急逝)、そして役柄が実人生と重なるように、本作で本格的に俳優復帰を果たした主役の小出恵介…。強力なキャストたちが、全身から映画愛を迸(ほとばし)らせて、素晴らしい演技を見せている。

国内外問わず、ミニシアターの窮状は深刻だ。作り手(製作)と送り手(劇場)と受け手(観客)とのトライアングルを回復させなければ、ミニシアター文化の火は消えてしまう。

本作には、この状況を何としても打開したいというスタッフ、キャストの熱情が漲っている。簡単なことではない。だから、本作の結末も決して楽観的なものとなってはいない。

どうなるか分からないミニシアターの未来。傍観していてはダメだ。街に出よう。映画を見よう。

銀平町シネマブルース

2022、日本

監督:城定秀夫

出演:小出恵介、吹越満、宇野祥平、藤原さくら、日高七海、中島歩、さとうほなみ、片岡礼子、藤田朋子 / 浅田美代子、渡辺裕之

公開情報: 2023年2月10日 金曜日 より、新宿武蔵野館他 全国ロードショー

公式サイト:https://www.g-scalaza.com/

コピーライト:© 2022「銀平町シネマブルース」製作委員会

配給:SPOTTED PRODUCTIONS

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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