日本映画

映画レビュー「女子高生に殺されたい」

2022年3月31日
誰にも言えない異常な願望に取り憑かれた高校教師・東山春人。綿密に計画を練り、ターゲットの女子生徒を操っていくが――。

キャサリンとは何者か?

女子高生に殺されたい―。高校教師の東山春人は異常な欲望に取り憑かれている。ただし、女子高生なら誰でもいいわけではない。標的とする特定の女子高生に殺されたいのだ。

しかも、ただ殺されればよいわけではない。崖から突き落とされ一瞬で殺されたり、睡眠薬で眠っている間に殺されたりするのは論外。じわじわと力ずくで絞殺されたいのである。要するに、自分の選んだ女子高生に思い切り首を絞められ、命を奪われたいのだ。

東山は、その生徒が通う高校の教師を退職に追い込み、その穴を埋める形で転任。しかも幸運なことに、その子のクラス担任となった。

あとは欲望を満たすのみ。とはいえ、実現は容易なことではない。東山に悪意も恨みも持たない一生徒に、殺意をいだかせ、実行に至らせることなど、普通に考えればあり得ない話だ。しかし、東山には周到な計画があった――。

キーワードとなるのはキャサリンという外国人女性名である。東山がモノローグの中でしばしば口にするキャサリンとは何者なのか。ターゲットとなる生徒とどんな関係があるのか。そして、その生徒は、クラスの中の誰なのか。

前半はこれらの謎が解かれないまま、ミステリアスに展開していく。控えめで陰のある美少女、真帆。他人に心を閉ざし保健室通いをしているが、なぜか真帆とは気が合うあおい。活発で男子にモテる演劇部の京子。黙々と練習に打ち込む柔道部の愛佳。

東山は、秋の文化祭で上演する演劇の最中に思いを遂げようと企んでいる。演劇の中心となるのは京子であり、演目を決めたのは東山だ。とすると、京子が怪しい。

一方、男である東山を絞殺するだけの力を持つ女子生徒は、愛佳をおいてほかにないようにも思える。東山は、京子にも愛佳にも親密に接し、なかなか本心が読めない。

しかし、やがて東山が行った実験や、ある生徒に現れた症状によって、ターゲットが特定されると、映画は計画の成否をかけたサスペンスの色合いを濃くしていく。

突然スクールカウンセラーとして赴任してきた元カノの深川五月や、不思議な予知能力を持つあおいらが、東山の計画を阻止しようと動き始める。

はたして東山の綿密な計画は完遂されるのか。東山は思い描いたように殺してもらえるのか――。

高校時代の東山が通学バスの中で乗り合わせる美少女に絞殺される妄想に恍惚となる場面や、キャサリンの謎に関わる衝撃の殺人事件がドキュメンタリー風に再現される場面は、猟奇性も漂わせ、リアルで生々しい。東山の欲望の切実さと異常さを感じさせ、“同病”の観客は息を呑むことだろう。

原作は、「ライチ☆光クラブ」や「帝一の國」の鬼才・古屋兎丸の同名コミック。登場人物が増え、計画がより複雑化していること、素手による絞殺(扼殺)がロープによる絞殺に変えられていることを除き、原作はかなり忠実に映画化されている。

ハンサムで女子人気抜群の主人公・東山を田中圭が好演。また、東山が接近する女子高生たちに扮した南沙良、河合優実、莉子、茅島みずきの4人も、それぞれの個性を生かした見事な演技を見せている。

ネタバレになるので、あえて名を挙げることは控えるが、東山のターゲットとなる生徒を演じた女優の憑かれたような演技は絶品。ポテンシャルの高さを見せつけてくれた。

きわどい話を、きわどさを損なわぬよう巧みに料理し、きわどい映画に仕立て上げた、城定秀夫監督の卓越した職人芸が光る逸品。

 

映画レビュー「女子高生に殺されたい」

女子高生に殺されたい

2022、日本

監督:城定秀夫

出演:田中圭 / 南沙良、河合優実、莉子、茅島みずき、細田佳央太 / 加藤菜津、久保乃々花、キンタカオ / 大島優子

公開情報: 2022年4月1日 金曜日 より、新宿バルト9、渋谷シネクイント他 全国ロードショー

公式サイト:https://joshikoro.com/

コピーライト:© 2022日活

配給:日活

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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