日本映画

映画レビュー「愛なのに」

2022年2月24日
古本屋の多田は、女子高生に求婚される。しかし、多田には他に好きな女性がいる。そして、その女性は婚約中で、相手は浮気していた。

片思いが片思いに絡み合う

今泉力哉と城定秀夫。今をときめく二人の名匠が、互いに脚本を提供し合い、2本の作品を共作する。そんな話を聞いて思い出したのが、2021年に公開された今泉作品「街の上で」(2019)である。

主人公と関わる女性たちの一人が、“城定”という役名を付けられていた。「あっ!」と思ったのだが、あれは、ひょっとしたら今泉監督のラブコールだったのかもしれない。

ともあれ、いまノリに乗っている両監督がタッグを組んだ2作品。どんな化学反応が起きているのか。

今回、公開されるのは、城定が監督を務める「愛なのに」。片思いでつながった男女が、それぞれ干渉し、干渉されながら、紆余曲折を経て、新たな男女の関係を見出すラブストーリーである。

物語の中心を成す人物は3人だ。古本屋の店主・多田、女子高生・岬、そして多田のバイト仲間だった一花である。

ある日、多田は常連客の岬から、いきなりプロポーズされる。しかし、多田には一花という憧れの女性がいた。告白してあえなくフラれたが、LINEに残った彼女との交信記録は、今も多田の心をざわつかせている。

好きな人がいるからと、多田に拒否される岬。だが、諦めることを知らない岬は、その後も多田のもとを訪れ、せっせとラブレターを渡し続ける。

そんな多田に残念な一報が入る。一花が結婚するというのだ。婚約者の亮介とともにブライダルサロンに通う一花は、結婚式の準備に余念がなかった。

だが、亮介はとんでもない浮気者だった。よりによって二人の結婚式を担当するウェディングプランナーの美樹と、ホテルで密会していたのだ。

亮介の浮気を知った一花は、リベンジを宣言し、家を飛び出す。一花の頭に一人の男が浮かんだ。昔、好きだと言ってくれた多田だ。

一花からの思いがけない誘いの電話。真剣に一花を愛していた多田は、複雑な思いを抱えながら、愛のないセックスに応じるが――。

多田との情事に味を占めた一花。美樹から屈辱の宣告を受ける亮介。同級生の男子からの告白を一蹴する岬。怒涛の展開に、多田や一花、岬らの心が動き、それぞれの距離感が変化していく。

主人公である多田の決然たる行動、微笑ましいラストに、心が浄化される。

複数の片思いが絡み合うストーリーは、いかにも今泉力哉ふうであるが、登場人物たちの心が近づき、ふれ合い、変化していく展開は、城定秀夫の面目躍如といったところだろう。見事なコラボレーションである。

映画レビュー「愛なのに」

愛なのに

2022、日本

監督:城定秀夫

出演:瀬戸康史、さとうほなみ、河合優実、中島歩、向里祐香、丈太郎

公開情報: 2022年2月25日 金曜日 より、新宿武蔵野館他 全国ロードショー

公式サイト:https://www.lr15-movie.com/ainanoni/index.html

コピーライト:© 2021「愛なのに」フィルムパートナーズ

配給:SPOTTED PRODUCTIONS

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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