恋愛映画というジャンルを超える
パリで事務員として働くジュヌヴィエーヴは心が浮き立っている。水兵として任務に就いている恋人のダニエルが夏の休暇で帰ってくるからだ。飛行場に出迎えに行き、ダニエルの胸に飛び込む。パリの街でデートする毎日。しかし夢のような日々はあっという間に過ぎ、ダニエルは次なる赴任地へと旅立って行く。

二人は一年前の夏に海辺で出会い恋に落ちたのだった。口数少なく、「戦争も平和も同じ」と語るダニエルには、どこか人を寄せ付けないところがある。しかし、そんなダニエルにジュヌヴィエーヴは首ったけなのだ。いつか結婚したい。だが、ダニエルの態度は煮え切らない。

遠距離恋愛を支える唯一の手段である文通も、ダニエルからの返事はしだいに間遠となり、ジュヌヴィエーヴの心に不安が募っていく――。

愛し合った男女の心がすれ違っていく。珍しくもない話ではある。なのだが、思いつめたジュヌヴィエーヴの顔が、超クロースアップでとらえられた瞬間、映像は強烈な感情を迸(ほとばし)らせ、見る者を残酷な恋の世界へと引き込んでいくのである。

ダニエルと出会った夏の海辺。オフィスの窓から見下ろした路地の風景。雨に濡れた舗道、鮮やかな色彩の雨傘。カフェで口論するカップル。いずれも詩情あふれる見事なショットが次々と繰り出され、ジュヌヴィエーヴの心象を映し出していく。

モノクロとカラーが混在しているが、ギィ・ジル監督によると、現実の時間をモノクロ、人物の内面や思考はカラーで撮影したそうである。
素晴らしい映像は、パリのジュヌヴィエーヴからブレスト赴任中のダニエルへと焦点が移ってからも変わらない。

大戦中にドイツの爆撃を受けたブレストの現在。酒場の女との情事。そして、ジャン=ピエール・レオやジャン=クロード・ブリアリがカメオ出演するパリの夜のエピソード。いずれもため息の出るようなショットとともに、ダニエルのナレーションによる一種の社会批評や人生論が披露され、恋愛映画というジャンルを超えていく。
加えて、本作にはダニエルの友人であるギィ役として、ギィ・ジル監督自身が出演。パリでの放浪生活を語るエピソードが、まるで短編映画のような独立性をもって組み込まれている。

そもそもダニエルがすでにジル監督の分身なのだと思うが、念押しするかのように、ここではジル監督が主人公となり、自伝を語る。
このエピソードを挿むことによって、ダニエルの心理や行動をぐっと共感しやすいものにすると同時に、ジル監督は自身の仮面をそっと引きはがして見せてもいるのである。

それにしても、卓越した映像感覚と、自在な語り口には、心の底から感服させられる。1960年代のフランスにこれほどの映画作家がいたことを知らずに生きてきたとは…。
「海辺の恋」に続く長編第2作「オー・パン・クぺ」も同時上映される。
海辺の恋
1964、フランス
監督:ギィ・ジル
出演:ダニエル・ムースマン、ジュヌヴィエーヴ・テニエ、ギィ・ジル、ジュリエット・グレコ、アラン・ドロン、ジャン=クロード・ブリアリ、ジャン=ピエール・レオ
公開情報: 2026年4月18日 土曜日 より、シアター・イメージフォーラム他 全国ロードショー
公式サイト:https://guy.crepuscule-films.com/
コピーライト:© 1965 Films Galilée
配給:クレプスキュール フィルム

