外国映画

21世紀のジャン=リュック・ゴダール わたしたちの映画 2001-2010

2026年6月20日
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JLGが2000年代に放った4本を一挙上映。衰えることなき創造性と、妥協を知らぬ反骨精神が、全作品に永遠の輝きを与えている。

愛の世紀

モノクロフィルムで撮られた前半パートと、デジタルビデオによる後半パートで構成された本作。前者は、主人公であるエドガーが愛をテーマに映画を企画し、出演者をキャスティングしていく話を軸に進行していく。

三世代にわたるカップルの出会い、性愛、別れ、再会を描きたいと思っているエドガー。“大人世代”の女性役として白羽の矢を立てた人物を探し出し、映画の話を持ちかけるが――。

夜のパリの街並みが溜息の出るほど美しい。だが、そこに被さるゴダールのナレーションは、詩情に浸る贅沢を許さない。ナチスの支配。レジスタンスの抵抗運動。映像を見つめると同時に、フランス語を聴く、あるいは字幕を読む。右脳と左脳、ともにフル回転を求められるのがゴダール作品なのだ。

映画出演を承諾しなかった件の女性。彼女はレジスタンス闘士だった女性の孫であったことが、2年前の記録映像である後半パートで明かされる。

アメリカ合衆国の“スピルバーグ株式会社”(!)から、祖母のレジスタンス活動を映画化する権利を買い付けに来たエージェント。孫娘は彼らの言葉遣いから、合衆国の歴史の浅さまで、徹底的に相手を罵倒する。

愛を描いてはいるが、同時にナチスや合衆国への敵意や憎しみ、そして現代ハリウッド映画への軽蔑にも満ちている。変わらぬゴダールの健在ぶりを示した作品だ。

映画史特別編 選ばれた瞬間

10年もの年月を費やして完成させた5時間の超大作「ゴダールの映画史」(1998)。その密度の濃さもあって、一気に見るには覚悟が必要な作品だった。それをゴダール自ら解体し、再構成してみせるのが本作だ。

オリジナルに収められていた画像・映像の大半が思い切り割愛され、残された断片も高速で入れ替わっていく。各カットは着色、脱色、ディゾルブを繰り返し、その上にゴダールの補完的ではないナレーションが被さる。

画面を追うのに精一杯で、頭が追いつかない。それでもキャッチできた言葉は、すべて深く心に刺さる。

「第一次大戦と米国資本がフランス映画を滅ぼし、二次大戦とテレビが欧州映画を滅ぼした」。20世紀以降、映画が辿ってきた歴史。「未だ見られない映画を心に刻んだ」。ゴダールら映画青年を支えた恩人ラングロワへの感謝。

そして特権的なまでに多くの“紙幅を割いた”ヒッチコックの方法論。「ヒッチコックはイマージュで宇宙をコントロールした」。

「フランスで映画が撮れ、芸術家として生きられるのは特権だ」「衰退への道を日々一歩ずつ落ちていく国は格別だ」。「この時代に人生は生きるに値しない」。皮肉。失望。諦念。ゴダールにとって、死はすでに射程内にあったか。

アワーミュージック

ダンテの「神曲」に倣った「時獄篇」「煉獄篇」「天国篇」の三部構成。「時獄篇」では、人類が繰り返し経験してきた殺戮の歴史を、映画やニュースフィルムの画像・映像でモンタージュしていく。使用される画像=殺害場面の物量がすさまじい。

人類はこんなに殺してきたのか、殺されてきたのか。「お互いを夢中で殺し合う」「生存者がいるだけでも驚きだ」というナレーションの何と素直なことか。

続く「煉獄篇」は、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で多くの市民が殺害されたサラエヴォが舞台。講演のため訪れたゴダールとユダヤ人の学生オルガとの交流が描かれる。オルガが民族闘争を問い詰めながら、自分を追い込み、悲劇的な結末を迎える展開が衝撃的だ。

一転して、エピローグのような「天国篇」は、夢のようなメルヘンの世界。森を抜けた陽の当たる場所。悩みからも苦しみからも解放された空間。のはずだが、あちこちに銃を携えた水兵がいるのはなぜだろう。ゴダール作品としては珍しく感情のにじみ出た映画だ。

ゴダール・ソシアリスム

「アワーミュージック」同様に三部構成。最初のパートは豪華客船で地中海を旅する人々の姿を描く。乗客の中には、戦中戦後にフランスやスペインで暗躍した「ゴルトベルク中佐」という老人がいる。スペイン内戦で消えた黄金の秘密を握っていると思われるこの老人を追って、フランスの捜査官やロシアの女性スパイも乗り込んでいる。

彼らの動きが気になるのはもちろんだが、ゴルトベルクの孫娘アリッサや彼女と親しくなる少年の動向からも目が離せない。ちなみにアリッサ役のアガタ・クーチュールは、「勝手にしやがれ」(1959)、「気狂いピエロ」(1965)などのゴダール映画をはじめ、多くのヌーヴェル・ヴァーグ作品を手がけた大プロデューサー、ジョルジュ・ド・ボールガールの孫娘。ほかにも、船室で歌を1曲披露するパティ・スミス、幾何学を講じるアラン・バディウなど、各界の大物をさり気なく出演させているところが、いかにもゴダールらしい。

さしたるサスペンスもなく、大きな展開もないまま、船旅は終わり、二番目のパートに移る。今度は田舎町でガソリンスタンドを経営するマルタン一家の話だ。

夫婦で選挙に出馬することになるが、子供たちは自分たちも立候補を認められるべきと主張。取材クルーは彼らにもカメラを向ける。果敢にも立候補する子供たちだったが――。

社会派ホームコメディという形で、ゴダールはフランスの選挙制度や政治に異議申し立てをしているのだろう。息子が無邪気に母親の尻にしがみついたり、取材クルーの尻に興味を示したりする、本筋とは無関係な場面が印象に残った。

最終パートは「われら人類」というタイトルで始まる。パレスチナ、オデッサ、ユダヤ人、ギリシャ、ナポリ、スペインなどのキーワードが連想させる歴史的惨事の画像・映像がモンタージュされていく。どうしても本作でなければいけない必然性はないが、ゴダールにとって整合性などどうでもよいのだ。こういう映像は映写されること自体に意味があるのだから。

21世紀のジャン=リュック・ゴダール わたしたちの映画 2001-2010

愛の世紀 (4K修復版)※国内初上映

2001、フランス/スイス

監督:ジャン=リュック・ゴダール

出演:ブリュノ・ピュツリュ、セシル・カンプ、ジャン・ダビィー

コピーライト:©️ 2001 Avventura Films/Peripheria/Canal+/Arte France Cinéma/Vega Film/RTS

映画史特別編( 選ばれた瞬間)HD版

2002、フランス/スイス

監督:ジャン=リュック・ゴダール

出演:ジャン=リュック・ゴダール

コピーライト:© 2000 Gaumont

アワーミュージック(4K修復版)※国内初上映

2004、フランス/スイス

監督:ジャン=リュック・ゴダール

出演:ナード・デュー、サラ・アドラー、ジャン=リュック・ゴダール

コピーライト:©2004 AVVENTURA FILMS – PERIPHERIA – FRANCE 3 CINÉMA – VEGA FILMS

ゴダール・ソシアリスム(2K版)

2010、フランス/スイス

監督:ジャン=リュック・ゴダール

出演:カトリーヌ・タンヴィエ、クリスチャン・シニジェ、アガタ・クーチュール

コピーライト: ©2010 VEGA FILM, RTS, CANAL+

公開情報:2026年6月20日 土曜日 より、イメージフォーラム渋谷他全国ロードショー

公式サイト:https://www.ivc-tokyo/godard21st/

配給:アイ・ヴィー・シー

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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