ゴダールのミューズにして、ヌーヴェルヴァーグのアイコン、アンナ・カリーナ。その生涯を彼女自身が振り返るドキュメンタリー。

伝説の女優を振り返る

ゴダールのミューズとして知られるアンナ・カリーナ。出身はデンマークのコペンハーゲン。ジュディ・ガーランドに憧れ、カウント・ベイシーが公演にやってきたときには、飛び入りで歌声を披露したことも。

抑えがたいスターへの夢を抱え、一人パリへ出たのは17歳。生まれ育った灰色の街とは何もかも違う、華やかな大都会。カフェでスカウトされ、モデルの世界へ。

「汚い恰好だけど、瞳が輝いていた」。引き合わされたココ・シャネルにアンナ・カリーナと命名された。

CMの世界で売れっ子になったカリーナ。その映像を映画館の暗闇で見ていたゴダールが、たちまち夢中となる。

「勝手にしやがれ」の主演を打診されるが「脱ぐのは嫌」と断り、二作目の「小さな兵隊」で初主演を果たす。

「黒眼鏡の奥に輝く目に魅了されたの」。相思相愛。結婚。「女と男のいる舗道」「気狂いピエロ」など数々の傑作を生み出すが、65年に離婚。

その後、セルジュ・ゲンズブールが曲を書いたミュージカル「アンナ」では、歌手になりたいという少女時代からの夢を実現させた。

 

さらに、ハリウッド進出、ベルイマンの舞台への出演など、活動範囲を広げ、本作の監督であるデニス・ベリーと出会う――。

本作は、そんなアンア・カリーナの生涯を、カリーナ自身が振り返り、豊富なアーカイヴ映像、作品映像を交えながら、掘り起こしていくドキュメンタリー映画だ。

アンナと出会った頃の若々しいゴダールが車で疾走するモノクロ映像。「ゴダールは綿密に脚本を組み立て、アドリブを許さなかった」というカリーナの証言。貴重な記録が満載だ。

最近では小説も執筆するなど、さまざまなジャンルで、まだまだ活躍が期待されていた。この映画もそんな終わり方だ。だが、残念なことに、もうカリーナの新たな活動を見ることはできない。昨年12月14日に逝ってしまったからだ。

個人的なことを言わせてもらうと、アンナ・カリーナは思春期から青春期にかけて、最も夢中になった女優の一人だった。

ゴダール=カリーナ作品はすべてスクリーンで見たし、ベルギーのアンドレ・デルヴォーが撮った日本未公開の「ブレでの再会」は、火事になる前の旧フィルムセンターで身を乗り出し見たものだ。映画を見るというより、カリーナに逢いに行く。そんな気分だったかもしれない。

本作は、著作権上の問題で日本公開が不可能だったところ、プロデューサーの尽力で、今年限りの公開が実現したという。ありがたいことである。

『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』(2017、フランス)

監督:デニス・ベリー

2020年6月13日(土)より、新宿K’s cinema他全国ロードショー。

公式サイト:http://annakarina.onlyhearts.co.jp/

コピーライト:© Les Films du Sillage – ARTE France – Ina 2017

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