外国映画

映画レビュー「少年」

2023年7月21日
一人の少年の成長を少女の目を通して描いた、台湾ニューシネマの傑作。ホウ・シャオシェンが世界に羽ばたく契機となった注目作だ。

台湾ニューシネマの原点

シングルマザーのシウインは、息子アジャの将来を考え、年の離れた公務員のビー・ターシュンと見合い結婚する。ターシュンはアジャを実の子のように可愛がり、多少ぎごちなくはあるが、シウインが望んだ通りの温かな家庭が築かれていく。

やがて弟も二人生まれ、アジャは中学へ進学する。だが、もともと悪戯好きな少年だったアジャは、悪童仲間とつるむようになり、しだいに問題行動はエスカレート。敵対するグループとの喧嘩では、深刻な事件を起こし、窮地に追い込まれる――。

もちろん、毎日がトラブルばかりではない。後輩女子への告白やデートなど、青春を謳歌する姿も描かれる。つらいこともあれば、楽しいこともある。要するに、本作はアジャという一人の少年の、よいことも悪いことも含めた、成長の記録なのである。

物語は、アジャのクラスメートで隣家に住むシャオファンという少女の視点で描かれる。アジャとその家族に起きた出来事を見つめ続けたシャオファンが、大人へと成長した現在の時点から、それらを回想していくスタイルだ。

したがって、画面に現れるのは、あくまで彼女から見たアジャであり、アジャが自ら語ることはない。アジャは主体ではなく客体なのだ。だから、カメラはアジャに近づきすぎることなく、一定の距離から眺めるように映し出す。

それは、アジャの母であるシウインについても同様だ。なぜ彼女は幸せそうでもなければ、不幸せそうでもないのか。なぜ突如として死を選んでしまったのか。シウイン自身は何も語らない。あくまでシャオファンの印象や感想が語られるだけなのだ。

このように人物から距離を保ち、決して内面に立ち入らない表現スタイルは、本作に共同脚本家として参加したホウ・シャオシェンの作品の特徴として、独特の情感を醸し出すことになる。

それは、本作の共同脚本家で、次作「風櫃の少年」以降ホウ・シャオシェンとコンビを組むことになるチュウ・ティエンウェンとの共同作業がもたらしたものに違いない。

その意味で、本作はホウ・シャオシェンのスタイルを決定づけるとともに、台湾ニューシネマの幕を切って落とした画期的な作品と言えるだろう。

「台湾巨匠傑作選2023」で上映。デジタルリマスター版、劇場初公開。

映画レビュー「少年」

少年

1983、台湾

監督:チェン・クンホウ

出演:チャン・チュンファン、ツイ・フーシェン、イェン・チェンクオ、ジョン・ジュアンウェン、ニウ・チェンザー、トゥオ・ツォンホア

公開情報: 2023年7月22日 土曜日 より、新宿K’s cinema他 全国ロードショー

公式サイト:https://taiwan-kyosho2023.com/

コピーライト:© 1983 Central Motion Picture Corporation & Evergreen Film Company /  ©2023 Taiwan Film and Audiovisual Institute

配給:オリオフィルムズ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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