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「軍中楽園」ニウ・チェンザー監督 単独インタビュー

2018年5月24日
中台攻防の最前線で展開する愛と哀しみの群像劇。「国民党兵士が、あの時代とどう向き合い、どう生きてきたかを描きたかった」

あの時代とどう向き合い、どう生きてきたか

中国と台湾が対立状態にあった1969年。新兵のルオ・バオタイは、中台攻防の最前線である金門島の831部隊に配属される。任務は、「特約茶室」と呼ばれる娼館の管理だ。複雑な事情をかかえて働く娼婦、虚構の愛に翻弄され人生を狂わす老兵。運命に翻弄された人々との出会いを通して、バオタイは人間的成長を遂げていく。ニウ・チェンザー監督は「国民党兵士が、あの時代とどう向き合い、どう生きてきたかを描きたかった」と語った。

退役後は苦しい人生を送った

――831部隊をテーマに選んだ理由は?

以前、台湾の「中国時報」という新聞に、70代の老人の文章が載った。本作に登場するバオタイのような若者について書いたものだった。831部隊に配属された若い兵士が、娼館で働く女性たちと交流する様子が描かれていた。

私はその文章の著作権を買い取った。この若者が831部隊での体験を通して成長していく物語を映画にしたいと思ったからだ。だが、当時、私は資金も能力も乏しく、構想はあったのだが、実現できないまま時が過ぎていった。

その後、台湾が発展を続ける中で、私はさまざまなことを感じていた。

たとえば、1949年に蒋介石と一緒に中国から台湾に渡ってきた国民党の兵士たちが、今ではすっかり年をとり老人になっている。私の母方の祖父や、私の父も、中国からやってきた国民党の兵士だった。

ただ、彼らは軍隊の中でも高い地位にあったので、退役後も幸せに暮らしていた。しかし、多くの兵士は、結婚もせず、子供もなく、お金もない。とても苦しい人生を送っていた。

こういった人たちも、若いときは、ハンサムでカッコよかったのだろう。素晴らしい青春時代を謳歌したかもしれない。映画化するなら、必ずこういう人たちのエピソードも描こうと思った。そのときは、香港のアンディ・ラウに出てもらおうとも考えていた。

その後、「モンガに散る」(2010)を撮り、さらに「LOVE」(2012)が商業的に成功を収め、次はアクション映画を撮ろうということになっていた。しかし、私は大作を手がける前に、もう1本小さな映画を撮りたかった。そこで浮上したのが、「軍中楽園」だった。

物語の舞台となる金門島を訪れた私は、多くの人々にインタビューし、膨大な資料に目を通し、映画化に向け準備を進めていった。しかし、リサーチすればするほど、重い荷を背負ってしまったような気がしてきた。

国民党の兵士は、あの時代とどう向き合い、どう生きてきたか。この点もしっかり描かなければいけないと思った。

 

世俗的観念が愛を引き裂いた

――主人公のパオタイは娼婦で親しくなった二―二―と結ばれそうになるが、寸前で彼女を拒んでしまいますね。

パオタイは、世の中から期待されるような生き方をすべきだと思っている。あの晩、パオタイはニーニーと結ばれかけたが、最終的に彼女から逃げてしまった。

自分の童貞はこういう職業の女性ではなく、自分の妻になる人に捧げるべきだ。そんな考えが頭をよぎったからだ。それは、まさに世間が彼に期待する考え方だ。

つまり、パオタイの世俗的な観念によって、二人の関係は引き裂かれてしまった。後に、彼はそれをずっと悔やむことになる。

人間というのは、社会からいろんなことを期待されながら生きていく。礼儀だとかしきたりだとか、さまざまな束縛を受け、愛とか人間関係の本質的な部分に直面する勇気がなかなか持てない。あえて、そこに向かっていくということは、なかなかできないものだ。

私も、過去に対して後悔の念、遺憾の念を持っている。しかし、今回この映画を撮ることによって、そんな自分の過去と少しは和解することができたのかなと思う。

――パオタイ役に「モンガに散る」のイーサン・ルアンを起用しています。彼の魅力は何でしょう。

イーサンがデビューしたとき、その演技を見て「こいつ、なかなかいいものを持っているな。背も高いし、魅力的な若者だな」と思った。

さっそくテレビドラマに起用したところ、彼は一夜にして有名人となり、たちまちスターになった。彼には「モンガに散る」にも出演してもらったが、その撮影は実に楽しい経験だった。そういった縁で、彼との関係はずっと続いている。

彼の魅力は、高い身長に加えて、運動神経が抜群なところ。ユーモアにも富んでいる。また反逆心があるところも、非常に気に入っている。パオタイ役は彼以外に考えられなかった。

ホウ・シャオシェン監督から多くを学んだ

――ホウ・シャオシェン監督が編集に参加することになった経緯は?

少年時代、私はホウ監督の作品2本に出演したことがある。ホウ監督は私が心から敬愛する人物だ。本作の中で、中年の兵隊と主人公は、どこか親子のようにも見えるが、実はホウ監督も、私にとっては父親のような存在だ。

映画を撮り終えると、私は必ずホウ監督に見てもらうことにしている。敬愛する監督に、自分の作品を認めてほしいという気持ちがあるのだと思う。ところが、監督は非常に厳しい人で、「いいね」とは一切言わない。必ずあれこれダメ出しをする。

そこで、今回、どうせダメ出しされるなら、出来上がった作品を見せるより、完成前のラッシュを見せて、アドバイスを求めることにしたんだ。いずれにせよ、ホウ監督に見てもらうことは、私にとって一種のセレモニーのようなもの。深い意味はなかった。

ところが、ラッシュを見るなり、監督はこう言ったんだ。「この映画、半分、俺が編集してやるよ」。その言葉に偽りはなく、監督は、十数日間も私の会社で編集作業に没頭してくれた。

黙々と仕事する監督の迫力に圧され、私は遠くから静かに見守るだけ。水とフルーツを運んで「はい、どうぞ」と言ったら、あとはただ黙って見ている(笑)。

ホウ監督は、「このシーンは全部カットしよう、このストーリーも全部カットしたほうがいい」と、思い切った決断で作品をブラッシュアップしてくれた。監督が編集を手伝ってくれたことは、作品にとっても、私にとっても大いにプラスとなったと思う。

実は、ホウ監督とは過去にいろいろ確執もあった。遺憾なこともした。しかし、今回、監督と仕事をすることで、心のもやもやは解消されたと思う。監督も私のために心を込めて仕事してくれた。

ホウ監督から多くのことを学んだ私は、映画監督として一段と成長することができたと思う。映画の最後で、ホウ監督に対する感謝の辞を記したが、監督に深い敬意を示せたことで、映画監督として新たなスタートを切ることができるような気がする。いま、私は新人監督のような気持ちだ。

『軍中楽園』(2014、台湾)

監督:ニウ・チェンザー
出演:イーサン・ルアン、レジーナ・ワン、チェン・ジェンビン、チェン・イーハン

2018年5月26日(土)より、ユーロスペース、横浜シネマ・ジャック&ベティ、シネマート心斎橋他全国ロードショー。

公式サイト:http://gun-to-rakuen.com/

コピーライト:(c)2014 Honto Production Huayi Brothers Media Ltd. Oriental Digital Entertainment Co., Ltd. 1 Production Film Co. CatchPlay, Inc. Abico Film Co., Ltd All Rights Reserved

 

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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