日本映画

映画レビュー「街の上で」

2021年4月8日
恋人にフラれた男が、自主映画への出演をきっかけに、次々と魅力的な女性と接触。きわどい展開のはてに、訪れた結末は――。

フラれた男の恋の話

若者の街、下北沢。古着屋で店長をしている荒川青(あお)は、付き合っていた雪(ゆき)に浮気されたあげくフラれてしまう。

雪への未練を断ち切れないまま、それでもライブを楽しみ、馴染みの古本屋に通い、行きつけのバーに顔を出す青。いつも通りの日常が繰り返されていく。

しかし、ある日、一人の女性との出会いをきっかけに、青の平凡な日々に変化が訪れる。

女性の名は高橋町子。美大の学生で、自分の監督する映画に出演してほしいと依頼してきたのだ。勤務中に本を読んでいる青を見て、その読書姿を撮影したくなったと言う。

逡巡する青に、バーの常連客は「それは告白だよ」とけしかける。唆(そそのか)されてその気になったのか、青は古本屋で働く旧知の田辺冬子を相手に、撮影のリハーサルを始める。

ところが、撮影本番の出来は散々だった。どっと落ち込む青。打ち上げに参加しても、一人だけアウェイ状態である。

そんな青に、一人の女性が話しかけてくる。撮影クルーの一人で、名前は城定イハ。有名な映画監督と同じ苗字である。

青はイハに誘われるまま、彼女の部屋で二人だけの二次会へと突入するのだが――。

学生監督の町子。古本屋で働く田辺さん。そして、城定イハ。雪に捨てられた青は、映画への出演をきっかけに、三人のそれぞれ魅力的な女性と接触を持つことになる。

予想外だったのは、イハの接近である。なぜイハは青を自室に招き入れたのか。気があるのか、ないのか。逆に、青には下心があったのか、なかったのか。おそらく本人たち自身も答えられないであろう曖昧な感情を、カメラは慎重かつ精妙に掬い取っていく。

深夜の密室。青とイハは差し向かいで語り合う。30分あまりもの時間が割かれたシーンだが、最初から最後まで真横からの対面構図は崩れない。

にもかかわらず、いや、であるからこそか。スクリーンにはリアルな空気感が張り詰め、一瞬たりとも視線を逸らすことはできないのである。

触れなば落ちんといった風情のイハ。奥手で純情な青。演じる若葉竜也と中田青渚の化学反応が絶妙だ。

ところで、雪の浮気相手は誰だったのか? 冒頭からの謎に、突如として解答が示される。それは、青にとって思いもかけない人物だった。そして、さらに、そこから意表を突く展開が起こり、映画は大団円を迎える。

エンディングで決着したと思ったら、それは甘い。この先、物語は続き、さらなる波乱が起こることは間違いないはず。さりげなく予感を与えるシナリオの技が冴えている。

青をめぐるメインストーリーのほか、田辺さんの“不倫愛”や、雪の浮気、古着屋を訪れたカップルなど、サブストーリーも充実。男女関係の機微に通じた今泉力哉監督だからこそ作り得た、恋愛映画の傑作だ。

街の上で

2019、日本

監督:今泉力哉

出演:若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚、成田凌(友情出演)

公開情報: 2021年4月9日 金曜日 より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷他 全国ロードショー

公式サイト:https://machinouede.com

コピーライト:© 「街の上で」フィルムパートナーズ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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