外国映画

映画レビュー「嘆きのピエタ」

2020年3月18日
闇金の取り立て屋ガンド。冷酷非情なチンピラだ。そんなガンドの前に、実の母親だと言う女性が現れる。しかし、ガンドは信じない。

気高くも凶々しい母の愛

※新作「人間の時間」が公開中のキム・ギドク監督作品「嘆きのピエタ」(2012)公開時に書いたレビューを、一部加筆した上で掲載します。

主人公は、“闇金”の取り立て屋をしているガンドという男。融資先である町工場を回って借金を回収するのだが、そのやり口がすさまじい。

工具を使って、あるいは屋上から突き落として、負債者に重傷を負わせ、保険金で返済させるのだ。それで彼らの人生がどうなろうと、知ったことではない。

労働に必要な腕を失おうと、障害者となって働けなくなろうと、ガンドにとってはどうでもいいことなのだ。金さえ回収できればいい。冷酷非情なチンピラ。

そんなガンドの前に、一人の女性が現れる。生まれた時に自分を捨てた母親だと言う。にわかに信じることができないガンドは、女性を追い返す。

だが、拒まれても、拒まれても、女性は諦めることなく、ガンドのもとにやってくる。涙を流して赦しを乞い、ガンドに尽くし続けるのである。

それなのに、何ということか、ガンドはこの女性の股間に手をやると、「ここから俺は生まれたのか? ここに戻ろうか?」と言って、犯してしまう。

鬼畜である。それでも女性は献身的であることをやめない、不気味なまでに。

やがてガンドは、女性を本当の母だと信じるようになる。女性はガンドの人生に欠かせない存在となっていく。ガンドは女性を母として愛するようになる。しかし、ある日、女性がガンドの前から姿を消す――。

はたして女性は本当にガンドの母親なのか。違うとしたら、彼女の狙いは何なのか。

謎解きのサスペンスは後半まで続く。ヒントは随所に配されている。実は、冒頭シーンに謎の核心をなすものが提示されてもいる。

頭の隅にもやもやとちらついていた真相が、明瞭な像を結ぶ瞬間の、ぞっとする感覚。真に冷酷なのは、ガンドなのか? それとも女性なのか?

女性役のチョ・ミンス、ガンド役のイ・ジョンジン、いずれも無名の俳優が、瞠目すべき名演を見せている。ことに、心の奥底に押し込めた感情を眼の動きで表現してみせたチョ・ミンスの演技は絶品だ。気高さと凶々(まがまが)しさが表裏をなした複雑精妙な表情は忘れがたい印象を残す。

二人の命をかけた終盤の急展開、そして凄絶かつ荘厳なラストは圧巻だ。リアリズムと寓話性の、奇跡のような融合。「悲夢」(2008)以来となる久々の劇場映画。鬼才の完全復活を告げる文句なしの傑作である。

嘆きのピエタ

2012、韓国

監督:キム・ギドク

出演:チョ・ミンス、イ・ジョンジン

公式サイト:http://www.u-picc.com/pieta/

コピーライト:© 2012 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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