韓国のキム・ギドク監督がコロナ感染で死去した。表現のタブーに挑み、斬新な作品を生み続けた、天下無双の映画作家だった。

不世出の天才監督

キム・ギドク監督が新型コロナウイルス感染症で死去した。12月11日未明、滞在していたラトビアの病院で症状が悪化し、死亡したという。享年59歳。

96年に「鰐~ワニ~」でデビュー。「魚と寝る女」(00)のヴェネツィア国際映画祭を皮切りに、3大映画祭へ次々と作品を送り込み、「サマリア」(04)、「うつせみ」(同)、「アリラン」(11)、「嘆きのピエタ」(12)は、それぞれ最高賞や監督賞を受賞した。

ヨーロッパを中心に国際的な評価は高かったが、撮影中の事故や暴行事件などスキャンダルが付きまとい、財政的にも恵まれなかった。興行的な成功とはほぼ無縁の、典型的な“映画作家”だった。

いずれの作品も、突拍子もない設定、意表を突く出来事、エキセントリックな人物造型を特徴とし、独自の映像世界を構築していた。

ショッキングな描写は、現実離れしているようにも思えるが、決して奇天烈なものではなく、起こり得ることばかりだ。

「STOP」(15)公開時のインタビューでそこに触れると、「私には、何か事件が起きたら、そこから付随的に何が起こるだろうかと考える習慣がある」という言葉が返ってきた。

続けてキム監督は次のように語った。

「一見あり得ないことを可能に見せるのが映画だ。ひいては映画はイコール想像力だとも言える。私はいつもそんな考えで映画を撮っている。今まで誰もやったことがない、誰も見せてくれたことがない、新しいイメージ、新しい物語を探し求めている。それが映画作家としての使命だと思っている」

映画芸術の真髄を突くとともに、作家としての覚悟を示す、珠玉のメッセージを直接聞くことができたのは、実に得がたい経験だった。

謹んでご冥福をお祈りします。

関連するレビュー・記事

映画レビュー「嘆きのピエタ」
映画レビュー「嘆きのピエタ」
闇金の取り立て屋ガンド。冷酷非情なチンピラだ。そんなガンドの前に、実の母親だと言う女性が現れる。しかし、ガンドは信じない。

映画レビュー「殺されたミンジュ」
映画レビュー「殺されたミンジュ」
一人の少女が男たちに殺される。なぜ、彼女は殺されたのか? 殺した男たちの正体は? 背後にちらつく国家権力の影が不気味だ。

映画レビュー「人間の時間」
映画レビュー「人間の時間」
休暇を過ごす人々が乗り込んだ退役軍艦が出航した。やがて船は空中を浮遊。生き残りをかけた人間の本性がむき出しになる。

「STOP」キム・ギドク監督 単独インタビュー
「STOP」キム・ギドク監督 単独インタビュー
原発事故が引き起こした不安や恐怖を、衝撃的な映像で描いた問題作。「贅沢するために原発を作り、命を落とすのは愚かだ」