突如として姿を消した男。新たに出会った男。同じ顔をした二人の男の間で揺れる女が、最後にとった行動は?

眠っていた衝動が目を覚ます

目と目が合って、互いに一目ぼれ。まるで映画のような(!)なれそめである。運命的な恋に落ちた朝子(唐田えりか)と麦(東出昌大)。

イケメンでモテそうな麦を見て、親友の春代(伊藤沙莉)は、朝子に「絶対、泣かされるで」とからかい混じりに警鐘を鳴らす。

春代の予言(?)は的中する。麦は「靴を買いに行ってくる」と外出したまま、姿をくらましてしまったのだ。

それから2年。大阪から上京し、喫茶店で働く朝子は、麦と瓜二つの男に遭遇する。驚き、動揺する朝子。だが、全くの別人だった。

酒造会社に勤務する丸子亮平(東出昌大)。顔はそっくりだが、タイプは正反対である。自由気ままに生きていた麦。真面目なサラリーマンの亮平。

気になりながらも、亮平との接触を避けていた朝子だが、「君が好きや」と告白され、彼女も彼が好きになる。だが、朝子は“揺れる女”である。すぐに思い直して、亮平に別れを告げる。

そんな朝子が亮平を恋人として思い定めたのは、東日本大震災の起きた日だ。電車が止まり、黙々と歩く群集の中で、亮平とばったり出くわし、ついに心を決めたのだ。その出会い方に、何か運命的なものを感じたのかもしれない。

それから5年後、朝子と亮平は一緒に暮らしている。穏やかで平和な日々。だが、ここで、想像もしなかったことが起こる。失踪していた麦が朝子の目の前に現れたのだ。まるで何事もなかったように、悪びれる様子もなく。

新しい恋に踏み出すとき、通常、過去の恋は心から葬り去っているものだ。フルか、フラれるか、自然消滅か。いずれにせよ、恋には終止符を打つ。朝子の場合も、麦からフラれたと考えるのが普通だろう。

しかし、朝子はそう考えてはいなかったようだ。麦も朝子をフッたわけではない。つまり、朝子も麦も、互いの恋愛感情は中断されただけで、終わったわけではない。とすると、どうなるか――。

麦は常軌を逸した男である。朝子は、そんな異常な男に翻弄された女であるように見える。だが、本当に常軌を逸しているのは朝子のほうかもしれない。

作の後半の展開を見ると、そんな思いにとらわれる。だが、そもそも常軌を逸しているかどうかなど、誰が決めるのか。

もし、女性がこのようなシチュエーションに置かれたとして、朝子のような行動をとらないと断言できるだろうか。

メロドラマとミステリーを掛け合わせたようなストーリーは、もちろん現実の人生とは違う。とはいえ、絶対にあり得ない話ではない。

突飛な物語のように見えて、人間の心の底知れなさ、恋愛心理の不可解さを覗き見させてくれる、生々しく怖い映画である。

「ハッピーアワー」(15)で称賛を浴びた濱口竜介監督が、柴崎友香の同名小説を映画化。東出昌大が、麦と亮平の二役を完璧に演じ分け、新境地を開いた。また、朝子役の新人・唐田えりかは、初々しくも太々しい演技で、強烈な印象を残した。

『寝ても覚めても』(2018、日本・フランス)

監督:濱口竜介
出演:東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知(黒猫チェルシー)、仲本工事、田中美佐子

2018年9月1日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイント他全国ロードショー。

公式サイト:http://netemosametemo.jp/

コピーライト:©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS