日本映画

映画レビュー「ハッピーアワー」

2018年8月30日
30代半ばの女性4人。それぞれ心の内に爆弾を抱えている。いつ爆発するのか、しないのか。素人女優が圧巻の演技を見せる。

素人女優が生々しく演じる人生の危機

※新作「寝ても覚めても」が9月1日(土)より公開される濱口竜介監督の作品「ハッピーアワー」(2015)公開時に書いたレビューを、一部加筆した上で掲載します。本作は日本映画専門チャンネルで9月12日(水)深夜0:50(13日午前0:50)に放送予定です。

あかり、桜子、芙美、純。この4人の女性が、休日にピクニックを過ごすシーンから、映画は始まる。持ち寄ったランチを食べながら、近況を報告し合い、「今度は泊まりがけで有馬温泉へ行こう」と盛り上がる。

4人とも30代半ばぐらいか。看護師のあかりはバツイチで今は独身、ほかの3人は既婚者だ。

職場や家族から解放される4人だけのひとときが、彼女たちにとってかけがえのない時間なのだろう。屈託なさげに談笑する4人。

しかし、実はそれぞれに問題を抱えている。映画の進行につれて、それが何なのかが明らかになっていく。

一人ひとりが心の内に隠し持った小さな爆弾、大きな爆弾。どんな拍子に爆発するのか、しないのか。起爆スイッチとなるのは何なのか。

4人の人間関係に、さまざまな他人が介入し、接触することで、いよいよ彼女たちの心はざわつき、乱れ、爆発の危険に晒されていく。

いかにも平凡な4人の女性たち。街ですれ違っても、注意を引かれることはないだろう。それが、ストーリーの進展とともに、目の離せない特別な存在へと変貌していく。気がつくと、彼女たちの一挙一動に目が釘付けとなっている。

独特のスタイルを持った作品である。5時間を超える長尺だが、全体を構成するシーンの数は決して多くない。だが、一つひとつのシーンが長いのだ。

例えば、芙美が企画に関わるワークショップに4人が参加するシーン。講師の指導を受けて、一連のエクササイズを行うのだが、普通なら中略に中略を重ねて簡潔に編集するところを、カットなしに丸ごと見せている。

同様に芙美が企画する朗読会のシーンでも、女性作家が自作を1篇読み上げるのを、最初から最後まで分断せずに収めている。

にもかかわらず、冗長になるどころか、見る者は作品世界にぐいぐいと引き込まれていく。まるでその場に立ち会って、ワークショップや朗読会を、彼女たちとともに経験しているような気分にさせられる。そのため、5時間超の長さが少しも退屈に感じられないのだ。

4人の女優は全員が素人で、濱口竜介監督が主宰した“即興演技ワークショップ”の参加者だという。プロの役者の演技とは次元の異なる、いかにも生々しい演技に圧倒される。第68回ロカルノ国際映画祭では、4人全員が最優秀女優賞に輝いた。

ハッピーアワー

2015、日本

監督:濱口竜介

出演:田中幸恵、菊池葉月、三原麻衣子、川村りら

公式サイト:http://hh.fictive.jp/ja/

コピーライト:© 2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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