日本映画

映画レビュー「真夜中のキッス」

2023年6月22日
殺人を犯し逃走中のカップル。男は女に自首を持ちかけるが、女はかたくなに拒否する。女には逃げおおせる自信があるのか?

逃げまくる魔性の女

夜の湾岸道路。一台の車が疾走する。ドライバーの手には血が付着している。重大な犯罪を終えた後の逃避行であろうと推測できる。後部座席には血まみれになった女の死体。

と思ったら、やにわに死体は動き出す。共犯の女だった。返り血を浴びたまま寝ていたのだ。二人はファミレスに入る。

恋人同士と思われる二人。気弱なユウジは自首しようと持ちかけるが、ユイはかたくなに拒否する。主犯はユイのほうで、ユウジは共犯者だということが会話から分かる。

話の中身が洩れているのかいないのか、近くの座席から学生風の男が振り向く。ユウジが席を外すと、ユイはその学生風の男をじっと見つめる。

聞かれたかもしれない。そんな不安など微塵も感じさせない、大胆で強い眼差し。ユイは男の向かいに座ると、ストーカーに付きまとわれ、殺されるかもしれないと出鱈目を口にする。

ユウジが席に戻ってくる。ユウジが若い男と話をしている隙にユイは逃げ出し、元カレのアパートを訪ねる。そこで今カノのものであろう女もののセーターに着替えると、ユイはそそくさとアパートを後にする。

ここで、思わぬアクシデントが起こる。ファミレスにいた学生風の男が、階段の下で待ち伏せしていたのだ――。

ここから、さらに新たな人物が登場し、想定外の事態が起きていく。だが、ユイは状況の変化に翻弄されることなく、冷静かつ大胆に逃走計画を更新していくのである。

何が起ころうと、並外れた順応性でアジャストし、獰猛なまでに迷いのない行動力で、サヴァイヴしていく魔性の女ユイ。まさに唐田えりかのために創造されたかのようなキャラクターだ。

ワンカットの無駄もない緊密なカット割りで、90分でもイケるストーリーがわずか30分にまとめられているのもスゴイ。鬼才・佐向大監督の手腕が光る、これぞフィルムノワールの傑作である。

オムニバス映画「無情の世界」の1本。

映画レビュー「真夜中のキッス」

真夜中のキッス

2023、日本

監督:佐向大

出演:唐田えりか、栄信、小野莉奈、安西慎太郎、新名基浩

公開情報: 2023年6月23日 金曜日 より、新宿シネマカリテ他 全国ロードショー

公式サイト:https://studio-nayura.com/mujo/

コピーライト:© 2023「無情の世界」G-STAR.PRO

配給:G-STAR.PRO

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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