悪魔メイクが怖(こわ)可愛い
ハルカ、ナナ、タカノリの三人は、連絡がとれないバンド仲間のソウタに会うため、千葉の実家を訪ねる。そこは、なぜか窓ガラス一面に古新聞がびっしりと貼られた古家だった。
大声で呼ぶと、すっと戸が引かれ、ソウタがぬっと顔を出す。ギョッとする三人を招じ入れ、茶をふるまうソウタは、活気がなく、表情も乏しい。部屋は暗く、カーペットにはヌルッとした液体。
何とも不気味なムードだ。これで何も起こらない方がおかしい。スイッチを押すのはナナ。家の奥の壁に貼られたお札を外してしまうのだ。すると、ナナはゾンビと化し、タカノリを襲い、二人ともゾンビに。凶暴化した二人をハルカが迎え撃つ。
血しぶき。回転する首。チェーンソー振り回し。口からゴキブリ…。ハルカVSナナ&タカノリの死闘は、B級ホラー映画へのオマージュにあふれ、マニアは堪えられないだろう。
恐怖とユーモアが渾然一体となったこのシークエンス。バトルを傍観すらせず、我関せずと自閉するソウタの佇まいも笑いを誘う。
さて、この後、いったん仲間を失ったハルカはソウタの家を出る。そして、音楽プロデューサーのコウスケとの出会い、ナナやタカノリらとの長閑(のどか)な田園生活を経て、再び生死を賭けたバトルに身を投じることになるのである。
ゾンビ(悪魔)=悪、人間=善という単純な図式は、この映画と無縁だ。ゾンビも人間も同じ生き物。平和的に共存すべきものなのだ。
ハルカたちが暮らすソウタの家を訪れたコウスケが、「ギャギャギャ」と話すゾンビたちとタカノリの腹から飛び出た腸で縄跳びをし、ハルカの口から吐き出された青汁を飲む場面に、そんな思いがあふれている。
ホラー映画の定石を踏まえながらも、意表を突く演出や展開は、宇賀那健一監督の独創だ。ハルカやナナたちゾンビの造形やメイクも、最初は怖いが、見ているうちに、だんだん親近感が湧いてくる。これも宇賀那映画オリジナルと言ってよいだろう。
また、「悪魔の毒々モンスター」などで知られ、トロマ・エンターテインメントの設立者でもあるロイド・カウフマンがDJ役で出演しているのも嬉しい。
孤独と静寂を破り、高揚感が満ちあふれるラストに感極まる。
※本作の宣伝を担当していた映画プロデューサーの叶井俊太郎氏が2月16日に死去した。生前、映画人へのインタビュー取材でお世話になったことがある。謹んでご冥福をお祈りします。
悪魔がはらわたでいけにえで私
2023、日本
監督:宇賀那健一
出演:詩歩、野村啓介、平井早紀、板橋春樹、遠藤隆太、三浦健人、ロイド・カウフマン
公開情報: 2024年2月23日 金曜日 より、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿他 全国ロードショー
公式サイト:https://harawata-ikenie.com/
コピーライト:© 『悪魔がはらわたでいけにえで私』製作委員会
配給:エクストリーム