日本映画

映画レビュー「Love Will Tear Us Apart」

2023年8月18日
小学生のわかばは虐められている男子を助けた。7年後、わかばの周りで連続殺人事件が起こる。犯人は誰か。動機は何なのか。

恐るべきラブストーリー

地方都市に住むごく平凡な小学生の真下わかば。横暴で身勝手な父親のせいで家庭は暗いが、学校ではいつも親友の山口環奈と一緒に、楽しい日々を過ごしていた。

ある日、クラスメイトの小林幸喜が虐めを受けてるのを見て、わかばは思わず救いの手を伸ばす。見て見ぬふりはできない。深い意味はなかったが、これがきっかけでわかばと幸喜の心が急接近する。

翌日、登校すると、教室の黒板には二人の関係をからかう落書きが描かれていた。心ないクラスメイトの行動に傷つき涙を流すわかば。遠くからじっと見つめる幸喜。そして、事件が起こる――。

いきなり驚愕の展開である。おとなしく弱々しい幸喜の過激な行動は、前日に自分を助けてくれた彼女への返礼なのか。この先の二人の関係に興味が引かれるところだ。

だが、映画はここでいったんプツンと切れ、いきなり7年後へと飛ぶのである。わかばと環奈は十代後半になっている。

二人は追っかけをしているバンドのメンバーたちと別荘で夏のバカンスを過ごすのだが、ここで連続殺人が起こる。次々と殺されていく犠牲者たち。犯人は誰なのか。動機は何なのか。

凄惨な事件を二人は何とか生き延びるが、環奈はショックのあまり意識が戻らない。

この後も、わかばは東京観光中に犯人と遭遇し、新たな犠牲者が生まれる。殺されるのは、決まってわかばと関わりを持つ者ばかりだ。それが何を意味するのかが分かるとき、映画はにわかにラブロマンスの色彩を帯び始める。

ともにハードな日常を送っている少年と少女の幼い恋物語から始まり、キャンプ場を舞台にしたホラー、コミカルな演出を交えたクライマックスのバトルと、転調を繰り返しながらも、実は全編が純愛というテーマに貫かれている。ゆえに本作は見る者の胸を打つのである。

ヒロインのわかばに扮した久保田紗友をはじめ、「うみべの女の子」(2021)の青木柚、「女子高生に殺されたい」(2022)の莉子など、若手キャストの持ち味を最大限に引き出した宇賀那健一監督の手腕が光る、破格のラブストーリー。

Love Will Tear Us Apart

2023、日本

監督:宇賀那健一

出演:久保田紗友、青木柚、莉子、ゆうたろう/前田敦子(特別出演)/高橋ひとみ/田中俊介、麿赤兒/吹越満

公開情報: 2023年8月19日 土曜日 より、渋谷ユーロスペース他 全国ロードショー

公式サイト:https://lwtua.jp/

コピーライト:© 『Love Will Tear Us Apart』製作委員会

配給:VANDALISM

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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