日本映画

映画レビュー「THE MOTH QUEEN」

2023年12月14日
仕事のストレスが限界に達した正人は、泥酔し、気絶し、目覚めると、全くの別人と化していた。だが、それは本来の正人の姿だった。

本来の自分に生まれ変わる

営業マンの正人(まさと)は、クライアントの無茶な要求に応え続ける日々に疲弊し切っていた。子供が家を出て行ってからは、妙な夢にうなされ、妻の光(ひかり)との関係もギスギスしている。

ある日、期待していた契約が反故にされたことで、正人のストレスは極限に到達。泥酔し、部下に当たり散らし、公園でもみ合っていると、止めに入った外国人と格闘になり死んでしまう。

その後、息を吹き返した正人は帰宅し、バーから戻った光と鉢合せになるが、そこでも、妻の友人のアキラに襲われ、再び死んでしまう。

公園で正人と格闘した外国人のルカは、光が通うバーのマスター。自宅で正人を襲ったアキラはそのバーの常連。3人は顔見知りなのだ。

ルカとアキラはともに自分が正人を殺してしまったと思い込み、光を連れて、東京を脱出。だが、そこに、死んだはずの正人が現れる。

驚くルカとアキラ。しかし、正人は気絶したショックで過去の記憶を完全に喪失していた。

光を見ても妻と認識できない正人。光の知る正人とは全くの別人と化していた。しかし、その別人こそが、本来の正人なのだ。

世間の目を気にし、本当の自分を隠して生きてきた。ノーマルを装い、結婚し、子供までもうけた。偽りの人生だった。

冒頭、光が正人の所持するブラジャーを発見する場面がある。正人の正体を光は薄々感づいていたのだ。しかし、直視しようとしなかった。

記憶を失くした正人は、光が目を背けてきた真実の夫の姿なのだ。4人が同居する合宿のような生活の中で、否応なく本当の夫と向き合わざるを得ない光。記憶を失ったがゆえに、躊躇うことなく妻の前に素顔を晒す正人。

自然体で生きるルカやアキラの協力もあり、正人と光は徐々に距離を詰め、夫婦の新しい関係を模索していく――。

かなり深刻なテーマを扱っているのだが、随所に投入されたユーモアやギャグのせいで、トーンが暗くならない。特に、東京を飛び出した4人の合宿生活は、正人のみならず、光の人生再出発の場ともなっていて、清々しい感動がある。

終盤は、本格的に生まれ変わった正人がパワー全開で弾ける。やられたら、やり返す。アグレッシブな生き方が爽快だ。

監督は「RIVER」(2020)の合アレン。シリアスな中に笑いを適度にまぶし、メッセージ性と娯楽性が溶け合った好篇に仕上げている。自ら演じたアキラ役の不思議キャラもいい。

映画レビュー「THE MOTH QUEEN」

THE MOTH QUEEN

2023、日本

監督:合アレン

出演:久場寿幸、江藤あや、マイケル・ファンコーニ、栗岩空澄、真砂豪、アライジン、森川陽月、高橋万里子

公開情報:2023年12月16日 土曜日 より、ワイルドファイア(九段下駅下車)でロードショー

公式サイト:https://themothqueen.fujired.com/

 

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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