日本映画

映画レビュー「教誨師」

2018年10月3日
死刑囚が心安らかに最期を迎えられるよう、牧師の佐伯は彼らの話し相手を務める――。名優・大杉漣、最後の主演作。

6人の死刑囚と牧師との対話劇

プロテスタントの牧師である佐伯は、月に2回、教誨師(きょうかいし)として受刑者のもとを訪れる。「受刑者の心の救済に努め、彼らが改心できるよう導く」ことが、彼に課せられた使命なのだ。

受刑者は、他人の命を奪った者たちばかり。死をもって罪を贖うことが決定している死刑囚である。いつか必ずやってくる執行の日を、できるだけ心穏やかに迎えられるよう、佐伯は親身になって彼らに向き合う。

担当する受刑者は6人。それぞれ全く異なる個性の持ち主であり、殺人を犯した経緯や理由もさまざまだ。

勝手な理屈で殺人を正当化する自己中な若者、高宮。まことしやかな作り話を饒舌に語る中年女、野口。気さくで親切な元ヤクザ、吉田。

お人好しが高じて借金の山を築いたホームレスの老人、新藤。心に闇を抱えた寡黙な男、鈴木。些細なきっかけで感情が暴発、惨劇を起こしてしまった小川。

一癖も二癖もある受刑者たち。その一人ひとりに対し、真摯に対応することは、生易しい仕事ではない。柔軟で臨機応変、そして謙虚な人物でなければ、務まらない。

そんな教誨師に扮する俳優として、大杉漣はまさにうってつけと言える。名バイプレーヤーとして、受けの芝居はお手のもの。相手がどんな厄介な球を投げてこようと、しかと受け止め、相手の胸元に投げ返す。

面会を重ねるごとに、相手の心に接近し、しだいに距離を縮めていく様子を、ケレン味なく、ナチュラルに演じる大杉。見事である。

最後の主演作となった本作だが、大杉はその持ち味を最大限に発揮。三石研、古舘寛治、烏丸せつこら、いずれも達者な役者たちとの火花散る演技合戦は、見応え十分だ。

監督・脚本は、「ランニング・オン・エンプティ」(2009)の佐向大。脚本を担当した「休暇」(07)では、死刑に立ち会う刑務官の人生が描かれていたが、今回は、教誨師と死刑囚の対話を通して、生きることの意味を問うた作品となっている。

読み書きのできなかった老死刑囚が勉強し字を覚え、最後に残すメッセージが、ズシリと重い。

『教誨師』(2018、日本)

監督:佐向大
出演:大杉漣、玉置玲央、烏丸せつこ、五頭岳夫、小川登、古舘寛治、光石研

2018年10月6日(土)より、有楽町スバル座、池袋シネマ・ロサ他全国ロードショー。

公式サイト: http://kyoukaishi-movie.com/

コピーライト::©「教誨師」members

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

この映画をAmazonで今すぐ観る

この投稿にはコメントがまだありません