かつて淀川長治氏が世界一と評した映画館。42年前に火事で焼失したが、その記憶は、今も多くの人の心に刻みつけられている。

人々の心に残る世界一の映画館

山形県酒田市に「グリーン・ハウス」という映画館があった。“あった”と過去形で書いたのは、今は存在しないからだ。76年に自ら火元となった大火で焼失してしまったのだ。

映画評論家の淀川長治氏が「世界一の映画館」と絶賛した伝説の劇場。姿は消したが、その記憶は今も多くの人々の心に深く刻みつけられている。

観客として通った映画ファン、映写技師、チケットガール……。本作は、かつて「グリーン・ハウス」に集まった人々が、同館にまつわる思い出や、映画への愛を語るドキュメンタリーだ。

「グリーン・ハウス」がいかに豪華な劇場であったかは、作中に紹介される写真や映像からも明らかである。

入り口はホテルのような回転ドア。舞台の縁には鉢植えの花がぎっしり。観客席の板壁はグリーンのビロードで覆われている。東京都心のロードショー館をも上回るゴージャス感は、上映前から観客を夢見心地に誘った。

しかし、初めからこうだったわけではない。父の経営する同館の支配人に就任した故・佐藤久一氏が、経営不振を打開するため大改装に踏み切ったのだ。

「朝から行って、昼にはトーストとコーヒー、ミルクで腹ごしらえをして、また夕方まで、何回も同じ映画を見た」。そう語るのは、高校生の頃から同館に通い詰めた加藤永子さん。

館内に喫茶スペースがあって、ここから漂うコーヒーの香りも同館の売り物の一つだった。

バーテンダーはカクテルのコンクールで入賞した「雪国」の考案者、井山計一さん。もらったトロフィーは、「“映画館に飾るから”と言って久ちゃん(佐藤氏)が持って行ってしまった」とか。

 

焼失時に中学生だった白崎映美さんは、「憧れの場所だった。メインの劇場のほかに、マニアックな映画を上映する小部屋があった。おしゃれで高級なイメージ。最先端の場所だった」と往時を懐かしむ。

本作は酒田市の一劇場についてのドキュメンタリーである。にもかかわらず、他人事として見ることができないのは、東京はじめ多くの都市でも、同じように映画館の喪失を体験しているからだ。

映画人口の減少や都市の再開発により、昔ながらの映画館は激減した。名館がひしめいていた東京・日比谷も、ほとんどの劇場が消滅、もしくはビルの中に組み込まれ、存在感を失った。ロードショー館だけではなく、名画座も同様だ。個性的な劇場は絶滅寸前である。

「日本中がのっぺらぼう化している」。作中で白崎さんが語っているように、都市風景は画一化し、映画館は、どこもかしこもシネコンばかりである。

だが、個性的な劇場が完全に姿を消したわけではない。少ないながら多くの映画ファンを集めるミニシアターは存在する。

時代の流れだからと諦めるのではなく、往年の映画館文化をもう一度検証し、そのエッセンスを、今日のミニシアターづくりに役立てることは可能と思うのだが、どうだろう。

映画は、何を見るかも重要だが、どこで見るかも大切だ。この映画は、そのことを改めて教えてくれる。映画を愛するすべての人に薦めたい作品。昨年急逝した俳優・大杉漣の映画愛にあふれたナレーションも素晴らしい。

『世界一と言われた映画館』(2017、日本)

監督:佐藤広一

2019年1月5日(土)より、有楽町スバル座他全国ロードショー。

公式サイト:http://sekaiichi-eigakan.com/

コピーライト:©認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭

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