這い上がれない転落人生
マイクはロンドンで路上生活を送っている。年齢はたぶん20代。イケメンで女にはモテるが、労働意欲は皆無。誰彼構わず道行く人たちに小銭をせびっては無視されるという、不毛な日々を繰り返している。

ある日、仲間と喧嘩しているところを、仲裁に入った男性に宥(なだ)められ、飲食まで世話になる。ところが、あろうことかマイクは突然この親切な男性を殴りつけ、腕時計を奪い逃走してしまう。

だが、世の中は甘くない。犯行はたちまち発覚し、刑務所に入れられてしまう。数カ月後、仮釈放となったマイクは、保護観察官に住居と仕事を斡旋してもらい、更生への道を歩み始めるが――。

最初の職場となったホテルのキッチンでは、温情豊かな上司の期待に応えられず解雇。次に就いた清掃の仕事でも、止めていたドラッグに手を出しまたまた解雇。
毎日のように自己改善のための瞑想テープを聴いたり、カウンセラーと対話したりしても、結局マイクは底辺の生活から抜け出ることはできない。

生き方を変えるチャンスはたびたび訪れる。まずは喧嘩を仲裁した男性。マイクは更生プログラムの一環としてこの男性に面会するのだが、マイクはきちんと謝罪することもできず、面会は失敗に終わった。

ホテル勤務時の同僚女性二人とは、カラオケやドライブ、ダンスを楽しむ仲となったが、仕事の張り合いとするところまでは行けなかった。清掃会社では同僚の女性アンドレアと親密な関係になったが、ドラッグに足をすくわれる。

保護観察官やカウンセラーたちも、職務とはいえマイクを更生させようと誠意を尽くすのだが、当のマイクにその気がない。こうしてマイクはあらゆるチャンスをふいにしてしまうのである。

マイクの生活破綻にドラッグ摂取が大きく関わっていることは間違いない。マイクがシャワーを浴びる際に現れるサイケデリックな映像は、トリップ状態の暗示だろう。
しかし、それだけではない。マイクには反省とか向上心というものが全く感じられないのだ。そして、それには何か原因があるのかどうかも不明なのだ。それは、マイクがどんな人生を歩んできたかが、この映画では全く描かれていないからである。

養子として育てられたこと。そして養親はいい人たちだったこと。わずかに明かされたマイクの生い立ちでは、現在のマイクを説明できない。
にも関わらず、カラオケで熱唱するマイクのあの満面の笑顔、アンドレアとのセックスに臨む際の無邪気なはしゃぎようには、何とも言えない人間味があふれている。

こういう人物は決して特殊な存在ではない。ロンドンだけではなく、ニューヨークにも、ベルリンにも、北京にも、東京にもいるだろう。どこにでもいる彼らは、社会の底辺に落ち込んで、そこから抜け出ることなく、彷徨っているのだろう。
本人が悪いのか、社会が悪いのか。どちらも悪いのか。本作は、あえて答を出さないことで、観客に思考と想像を促す。ニュータイプの社会派映画である。
URCHIN/アーチン
2025、イギリス
監督:ハリス・ディキンソン
出演:フランク・ディレイン、メーガン・ノーサム、ハリス・ディキンソン
公開情報: 2026年10月23日 金曜日 より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷他 全国ロードショー
公式サイト:https://cinema.starcat.co.jp/urchin/
コピーライト:© Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム

