外国映画

映画レビュー「キングダムⅠ&Ⅱ」「キングダム エクソダス<脱出>」

2023年7月27日
デンマーク国内で50%超の視聴率を記録した、伝説のオカルトホラーが25年ぶりに復活。最新作を含む全3作が一挙公開される。

コメディ?ミステリー?ホラー?

キングダム(王国)と呼ばれるデンマークの国立病院。クセの強いスタッフが集まる大病院の神経外科に、隣国スウェーデンから主任医師のヘルマーが着任する。

デンマークに対し異常なまでの敵意と軽蔑心をいだくヘルマー。著しく協調性に欠けた高慢な性格で、たちまち周囲から浮いた存在となる。

しかし、自分の実力に絶大な自信を抱くヘルマーは、孤立など少しも恐れず、部下に厳しく接するのである。そんなヘルマーにも一つ弱点があった。着任早々に担当した手術で少女の脳を傷つけ、重度の障害を与えてしまったのだ。

もみ消しを図るヘルマーだったが、犬猿の仲のクロウスホイは決定的な証拠を握り、脅しをかける。ヘルマーとクロウスホイとの常軌を逸したバトルが始まる――。

一方、病院には不可思議な現象が起きていた。エレベーターの中で少女の泣き声が聞こえるのだ。と言っても、気づいたのは降霊術を使うドルッセ夫人だけである。仮病を装い入院した夫人は、病院で働く息子の協力を得て、悪霊と戦いながら、泣き声の正体を突き止めていく――。

さらに、病院では恐るべき出来事が起きていた。インターンのユディットが身ごもった胎児が猛スピードで成長し、生まれた後も驚異的なペースで巨大化し始めたのだ。この子供に扮しているのがウド・キアと聞けば、その異様さが想像できるだろう。

ほかにも、がん細胞の研究のため、末期患者のがん細胞を自らの体内に移植してしまうボンド医師や、なぜか病院内の事情や事件に精通している皿洗いの男女、そしてヘルマーを盲目的に愛する麻酔医リーモアなど、個性的な人物たちが登場。謎とサスペンスとユーモアと恐怖に満ちた、壮大な物語が展開していく。

ラース・フォン・トリアーが「純潔の誓い」と呼ばれる10の禁則を映画製作に課す「ドグマ95」を発表したのは1995年だが、テレビシリーズをまとめたこの「キングダムⅠ」(94)および「キングダムⅡ」(97)にも、そのスタイルが反映されている。

最もそれが強く感じられるのは、撮影は手持ちカメラによるというルールだ。ⅠとⅡ合わせて10時間にも及ぶ作品だが、全編にわたり、対話する人物の表情やリアクションは左右のパンでとらえ、移動する人物の左折や右折も遅れず追いかけていく。

敏捷で的確なカメラワークが、長時間のドラマを一瞬も弛緩させることなく前に進めていく。この後「イディオッツ」(98)、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(2000)と傑作を連発していくトリアー監督の、あふれ出る才気が全編に息づく作品だ。

ラストには怖い結末が待っている。いや、結末と呼ぶには唐突過ぎるだろう。続編があって然るべき。というわけで、25年ぶりに製作されたのが、今回初公開となる「キングダム エクソダス<脱出>」である。

当初はⅡの直後に撮られるはずだったが、ヘルマー役のエルンスト・フーゴ・イエアゴーが急死し、他の主要キャストも次々と他界。企画は暗礁に乗り上げた。特にイエアゴーは余人を以て替え難い俳優で、本シリーズではまさに要となる存在だったので、トリアー監督も呆然と立ちすくんだことだろう。

しかし、25年もたってしまえば、もうイエアゴーのキャラにこだわる必要もなくなる。ヘルマーの位置にはヘルマーの息子が据えられ、他のキャストも一部は同じ役、または異なる役で出演しているが、基本的に一新される。

ストーリーは継承され、悪霊との対決はドルッセ夫人から、夢遊病者のカレンにバトンタッチされる。Ⅰ・Ⅱと同様にエキセントリックな人物たちが引き起こす騒動の果てに訪れる衝撃の結末は――。

新作のみでも十分に楽しめるが、Ⅰ・Ⅱと順番に合わせて見ると、数倍エキサイティング。丸一日を捧げるだけの価値はある。ぜひ。

キングダムⅠ & キングダムⅡ

1994/1997、デンマーク

監督:ラース・フォン・トリアー

出演:エルンスト・フーゴ・イエアゴー、キルステン・ロルフェス、ギタ・ナービュ、セーン・ピルマーク、ピーター・マイジンド、ウド・キア

キングダム エクソダス<脱出>

2022、デンマーク

監督:ラース・フォン・トリアー

出演:ボディル・ヨルゲンセン、ミカエル・パーシュブラント、ラース・ミケルセン、ニコラス・ブロ、アレクサンダー・スカルスガルド、ウド・キア

公開情報:2023年7月28日 金曜日 より、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿他全国ロードショー

公式サイト:https://synca.jp/LvT_Films/kingdom/index.html#modal

コピーライト:© 2022 VIAPLAY GROUP, DR & ZENTROPA ENTERTAINMENTS2 APS

配給:シンカ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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