外国映画

映画レビュー「ナイトメア・アリー」

2022年3月25日
読心術で見世物小屋の人気者となったスタン。大都市に出て成功をつかむが、女性心理学者リリスと出会い、運命が狂い始める。

アメリカンドリームの罠

平原にぽつんと建つ一軒家。横たわった死体を、床下に落とし火を放った男は、燃え落ちる家屋を振り返ることもなく、歩き去って行く。いったい何があったのか。男は誰なのか。死体は誰なのか。

説明のないまま、シーンは見世物小屋へと移る。すると冒頭に出てきた男がいる。名前はスタン。放浪のあげく、ここに辿り着いたのだろう。

マネージャーのクラムにスカウトされたスタンは、読心術のアトラクションを手伝うことになる。ハンサムで、頭の回転が速いスタンは、たちまち客の心をつかみ、一座の人気者になる。

コンビを組むジーナは、かつて夫のピートと組んで、人気を博していた。だが、トリックで客を欺く毎日に耐えられなくなったピートが酒に溺れ、最近は精彩を欠いていた。それをスタンが挽回した形だ。

スタンの魅力は、客ばかりでなくジーナをも虜にした。しかし、スタンはそれで満足するような男ではない。

電気ショックを流す出し物で人気を集めるモリ―に目を付けたスタンは、彼女とコンビを組み、大きな街で勝負しようと持ちかける。最初は尻込みしていたモリ―だが、スタンの才能と魅力には抵抗できない。

大都市に出たスタンとモリ―は読心術で成功を収め、華やかな生活を手に入れる。だが、ある日、ホテルのショーに現れた女性心理学者リリスが、スタンの運命を変えていく。

冒頭から漂っていた不吉なムードは、リリスが登場することで、その濃度を増していき、スタンの人生の歯車を狂わせていくのである。

原作は、ウィリアム・リンゼイ・グレシャムの小説「ナイトメア・アリー 悪夢小路」。出版直後の1947年にエドマンド・グールディング監督によって映画化され、日本では「悪魔の往く町」という邦題で知られている。

ハリウッドを代表する二枚目スターのタイロン・パワーが主演した同作は、パワーの圧倒的なオーラと、モノクロ画像の美しさが際立つ名作。並みの監督であれば、リメイクに二の足を踏むことだろう。

だが、そこは異才監督のギレルモ・デル・トロである。スタンとリリスが出会う場面や、クライマックスで亡霊が現れる場面など、要所要所の設計や演出は、オリジナル版に敬意を払いつつも、全体としてデル・トロ色に染め上げ、独自の作品へと昇華させている。

特に、前半の見世物小屋のパートで見られる幻想的でサイケデリックなセットは、ダークファンタジーの名手たるデル・トロの面目躍如。オリジナル版ではあっさり描かれていた獣人(ギーク)ショーも、生々しくショッキングな描写で強烈なインパクトを生み出している。

最大の見どころは、スタンとリリスが、読心術と心理分析という互いの技を駆使して心を探り合いながら、急接近していくプロセスだ。ともに暗い過去を持ち、他人をコントロールすることで生きてきた二人は、富豪を騙して大金を稼ごうと手を組むのだが、そこには思わぬ罠が潜んでいて――。

アメリカンドリームの罠に落ちた男の悲劇を、まさに悪夢のように描き出したギレルモ・デル・トロ監督。その映像マジックを堪能したい。

映画レビュー「ナイトメア・アリー」

ナイトメア・アリー

2021、アメリカ

監督:ギレルモ・デル・トロ

出演:ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット、ウィレム・デフォー、リチャード・ジェンキンス、ルーニー・マーラ、ロン・パールマン、メアリー・スティーンバージェン、デヴィッド・ストラザーン

公開情報: 2022年3月25日 金曜日 より、TOHOシネマズ日比谷他 全国ロードショー

公式サイト:https://searchlightpictures.jp/movie/nightmare_alley.html

コピーライト:© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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