外国映画

映画レビュー「オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険」

2022年2月10日
二人の若者が11カ月でユーラシア大陸を横断。小型カメラやドローンで撮った、等身大の手作り自転車ロードムービー。

世界の現実を体感

アンドレアスとドミニク。二人の若者が、母国オーストリアから一文字違いの国オーストラリアまで、自転車の旅を決行する。その距離1万8000キロ。11カ月に及ぶ長丁場である。

本作は、その一部始終をドキュメンタリー映画としてまとめた作品だ。仲のよい友人二人きりの冒険旅行。かつてならカメラマンをはじめ、複数の撮影クルーが同行していたことだろう。

だが、本作は、文字どおりの二人旅。撮影は小型カメラやドローンを使って自ら行ったそうだ。テクノロジーの進歩は、映画の製作をどんどん簡略化していく。実に素晴らしい。

しかし、二人はIT企業で働く一般人。映画の撮影については“ど素人”である。過酷なコースを走行しながら、撮影するのは決して容易なことではなかった。

冒頭、映し出されるのは土砂降りの光景である。幸先の悪いスタートだ。先に進むだけで精一杯だったのだろう。オーストリアからスロバキア、ハンガリー、ルーマニアと、全行程の中では楽なコースと思われるパートの映像は、ほぼ欠落しており、場面はいきなりロシアへと飛ぶ。

一発勝負の“ロケ撮影”にやり直しはなく、アクシデントが起これば、そのまま記録されていく。

ロシアで2500キロを走り抜けた後は、カザフスタンの灼熱地獄。ドミニクが脱水状態となり、やむなくトラックに乗せてもらう。生死の問題だ。自転車旅という原則にこだわってはいられないのだ。

同じくドミニクが膝を痛めペダルをこげず、病院でしばらく休養をとる場面や、急遽入国許可が出なくなり飛行機移動を余儀なくされる場面も、ありのままに開示されている。ヤラセなし。愚直なまでに正直なドキュメンタリーなのだ。

襲い来る蚊や、群がる蠅。喉の渇き。オーストリアでは考えられない自然の脅威が、ときに二人の冒険心を萎えさせる。

しかし、一方で、地元の人々から食事に招かれ、結婚式に呼ばれ、大宴会を催してもらうなど、温かいもてなしが、彼らの心に潤いを与える。

苦難の中に、楽しみ、喜び、感激、感動が散りばめられた、等身大の手作り自転車ロードムービー。オーストリア同様、一応は先進国の日本で暮らす我々にとって、途上国の現実を垣間見ることのできる貴重なフィルムでもある。

オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険

2020、オーストリア

監督:アンドレアス・ブチウマン、ドミニク・ボヒス

公開情報: 2022年2月11日 金曜日 より、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺他 全国ロードショー

公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/austria2australia/

コピーライト:© Aichholzer Film 2020

配給:パンドラ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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