日本映画

映画レビュー「エッシャー通りの赤いポスト」

2021年12月25日
オーディションで選ばれた女優たちが、上層部の鶴の一声で降板の憂き目に遭う。女優たちは反乱の狼煙(のろし)を上げる。

エキストラのままでいいのか!

映画監督の小林に新作のオファーが舞い込む。今回は初心に返って映画を撮りたいという小林。主演女優に素人を起用するため、大々的なオーディションを実施することになった。

女優デビューする絶好のチャンス。しかもカルト的な人気を持つ小林監督の作品だ。各地から女優の卵たちが続々とオーディション会場に集まってくる。

小林監督を崇拝する“小林監督心中クラブ”の少女たち。浴衣姿の劇団員。俳優志望の夫を亡くした若き未亡人。近親愛で結ばれていた父親が自殺したばかりの、エキセントリックな女性。

多種多様な個性とバックグラウンドを持つ女性たちが、小林監督やカメラマン、プロデューサーらの前で、演技力を競い合う。最終的に小林の眼鏡に適う女優は誰と誰なのか。一人ひとりの魅力を味わいながら、選考者の視点で見ても面白い。

実はこの映画、出演者の多くがオーディションで選ばれた新人俳優たち。つまり、オーディションで選ばれた人たちが、オーディションの映画に出演しているのだ。

本物のオーディションを経て撮影された虚構のオーディション。この二重性を意識して見ると、さらに興味をそそられるだろう。

オーディションは順調に進み、キャストも決定。と思ったところで、横槍が入る。エグゼクティブ・プロデューサーが、昵懇(じっこん)にしている有名女優の起用を押し付けてきたのだ。到底受け入れられない無茶な要求。とは言え、逆らえる相手ではない。

この小林監督は園子温監督の分身のような存在か。一応、要求に従っては見せるが、諦めたわけではない。撮影が始まっても、なお逆転の可能性を信じているように思われる。

叛乱の狼煙(のろし)を上げるのは、主役を降ろされエキストラに甘んじることになった二人の女優だ。商店街での長い長いロケ撮影で、それは起こる。ラストのすさまじい転調は圧巻である。

無名のエキストラへのリスペクト。と見せておいて、叫ばれる「エキストラのままでいいのか!」というアジテーション。闘う相手は映画界だけではない。今や社会のどこを見てもエキストラばかり。園子温がいたたまれぬ思いを爆発させた青春群像劇。

映画レビュー「エッシャー通りの赤いポスト」

エッシャー通りの赤いポスト

2021、日本

監督:園子温

出演:藤丸千、黒河内りく、モーガン茉愛羅、山岡竜弘、小西貴大、上地由真、縄田カノン、鈴木ふみ奈、藤田朋子、田口主将、諏訪太朗、渡辺哲、吹越満

公開情報: 2021年12月25日 土曜日 より、ユーロスペース他 全国ロードショー

公式サイト:https://escherst-akaipost.jp/

コピーライト:© 2021「エッシャー通りの赤いポスト」製作委員会

配給:ガイエ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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