日本映画

映画レビュー「香川1区」

2021年12月23日
小川淳也vs平井卓也。熾烈な闘いの中で、政治の実相が浮かび上がる。2021年総選挙をリアルタイムで追ったドキュメンタリー。

カメラが暴く政治の裏側

大ヒット作「なぜ君は総理大臣になれないのか」の続編である。前回の総選挙では、自民党の平井卓也に競り負け、不本意ながら比例復活当選となった衆議院議員・小川淳也。知名度も上がった今回は、雪辱を果たすべく、背水の陣で選挙戦に挑んだ。

ただし、ライバルが手強いことに変わりはない。3世議員であり、家族や親戚が四国新聞、西日本放送のオーナーと、条件に恵まれた平井。対して小川は、彼自身の言葉で言えばパーマ屋の倅(せがれ)。看板(知名度)はともかく、地盤(後援会)やカバン(資金力)とは無縁だ。

だが、今回は空気が違った。自転車で街中を走る小川に、前回と比べ明らかに多くの人から声援が飛ぶ。小川も確かな手応えを感じ、上機嫌だ。

他方、平井は暴言騒ぎ、接待問題などでイメージを悪化させていた。小川に追い風が吹いていた。

ところが、予想外の出来事が起こる。小川vs平井の一騎打ちと思われていた香川1区。そこに、もう一人候補者が現れたのだ。選挙公示の直前、日本維新の会から送り込まれた町川順子。新人であり、当選の可能性はほぼゼロ。出馬に必然性が感じられない。

小川は激昂する。票を奪い合ってどうするのだ。野党は一本化すべきと、町川の立候補取り下げを迫った。しかし、小川の行動は多くの人の批判を受けることになる。

そんな小川を見かねて訪ねてきた田﨑史郎に、小川は思わず怒りをぶつける。その迫力にたじたじの田﨑。熱血漢・小川の真骨頂ともいうべき姿は、思わず笑ってしまうほど。本作のハイライトシーンの一つである。

話しぶりは理路整然としているが、その言葉には、世の不正や矛盾に対する猛烈な怒りがこもっている。それが時にドンと爆発する。そんな小川の人間味が、今回もたっぷり映し取られている。

一方、ライバルの平井であるが、当初は大島監督のインタビューも快諾し、余裕しゃくしゃくの体(てい)。それが途中から様変わりする。映画を小川のPRに使っていると非難し、大島監督は撮影を妨害される。

平井の豹変は焦りの表れだ。何が平井に起きたのか。後半で浮かび上がるのは、自民党政治の裏側である。ここまでやるか―。これが選挙の実態か―。決定体な場面を、大島監督がしっかり記録してくれている。

小川は快勝した。しかし、自民党全体の優位は揺るがなかった。だが、小川のような政治家を求める気運は間違いなく高まってきている。第2、第3の小川が登場し、全国に“香川1区”が増えていけば、政治は変わる。社会は変わる。そう信じたい。

映画レビュー「香川1区」

香川1区

2022、日本

監督:大島新

公開情報:2021年12月24日(金)より、ポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋で先行公開。2021年1月21日(金)より、イオンシネマ高松東他全国ロードショー。

公式サイト:https://www.kagawa1ku.com/

コピーライト:(c)ネツゲン

 

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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