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第34回東京国際映画祭 ガラ・セレクション「リンボ」

2021年11月24日
ベテラン刑事と若い女が猟奇殺人犯を追う犯罪サスペンス。世界の話題作を集めた「ガラ・セレクション」の1本として上映された。

ベテラン刑事と妻を殺した女

香港のスラム街。猟奇殺人事件が続発する。だが、発見されるのは切り取られた女性の手ばかりで、死体はない。被害者は生きている可能性もある。難事件である。

ベテラン刑事のザムが、警察学校出の新米刑事ウィルと組んで、捜査を担当することになる。

序盤にいきなり見せ場がくる。ザムがある若い女の顔を見るや、猛然と追跡を始めるのだ。女は必死で逃走する。ザムは車で追う。相棒のウィルは置いてきぼりだ。

狭く入り組んだ香港の路地。女が細い道に逃げ込む。ザムは別のルートから回り込み、待ち伏せする。しかし、女の逃げ足は速い。

なぜ、ザムはその女を追うのか。女は何者なのか。一切の説明抜きで、息もつかせぬチェイスが展開されていく。

迷路のような道を走る二人を追うカメラワークが俊敏。カット割りもスピーディ。だが、随時インサートされる俯瞰カットのおかげで、二人の進行方向や距離を見失うことはない。

執拗な追走の果てに、ザムは女を袋小路に追い詰める。壁をよじ登り、スロープ状の屋根に逃れる女を、ザムがついに捕らえる。女の顔に銃口を突き付け、引き金に指をかけるザム。殺るのか? 既(すんで)のところで、追いついたウィルが制止し、事なきを得る。

ザムとその女トウの間には因縁があった。トウは車の事故でザムの妻を死なせていたのだ。ザムにとって憎んでも憎み切れない相手。とはいえ、スラム街に精通したトウは、捜査の助けになる。

こうして、ザムは複雑な感情を抱えたまま、トウを捜査に同行させるのだが――。

犯した罪を償おうと、ザムの協力者として献身的に行動するトウ。そんなトウに対して次第に心を許していくザム。二人の距離が徐々に縮まっていく。

だが、一人の不気味な男が容疑者として浮上するや、ムードは暗転する。異常で凶悪な犯人の毒牙がトウに迫る。繰り広げられる死闘。そして、切なく無情な結末。

かき乱された心を、最後はすっきりカタルシスへと導く流れは、エンターテインメントの王道である。凄みの利いたモノクロ映像も素晴らしい。

第34回東京国際映画祭 ガラ・セレクション「リンボ」

リンボ

2021、香港

監督:ソイ・チェン

出演:ラム・カートン、リウ・ヤースー、メイソン・リー、池内博之

公式サイト:https://2021.tiff-jp.net/ja/

コピーライト:© 2021 Sun Entertainment Culture Limited. All Rights Reserved

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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