外国映画

映画レビュー「ジャズ・ロフト」

2021年10月14日
セロニアス・モンク、ズート・シムズ…。写真家ユージーン・スミスがテープに残した歴史的ジャムセッションがいま甦る。

名だたるジャズメンの生演奏

1958年、ニューヨーク、マンハッタン、6番街。写真家ユージーン・スミスが、5階建てビルのロフトで生活を始める。ロフトには夜な夜なジャズメンが集まり、ジャムセッションを繰り広げていた。ズート・シムズ、ホール・オーヴァトン、セロニアス・モンク……。

ジャスファンなら誰もが思うだろう。「一度でいいから生で彼らのプレイを聴いてみたかった」。そんな伝説的プレーヤーたちの演奏を、スミスは居ながらにして楽しみ、録音までしてしまったのだ。何という贅沢。

「仕事に集中できないから」と美しい郊外の家と家族を捨て、このロフトに移り住んだスミス。2万5000枚ものレコードを所有する無類の音楽好きとしては、パラダイスにやってきたような気分だったろう。

天井に穴を開け、コードを通し、マイクをセットし、オープンリール式の巨大なレコーダーを回す。結果的に残されたのは、何千時間にも及ぶ録音だった。

そこには演奏だけではなく、ミュージシャンたちの会話や、電話の声、スミスの独り言まで収められており、同時に撮られた数万枚の写真とともに、貴重な時代の証言となった。本作は、この膨大な記録をもとに構成したドキュメンタリー映画である。

何でもかんでも録音し、やたらめったら写真を撮りまくり、現像して……。常に仕事をしていたというスミスは、ユーモリストである一方、気難しい性格でもあったらしい。映画にはスミスと交友のあったジャズマンらが登場し、知られざるエピソードを披露する。本作の大きな魅力の一つである。

しかし、主役は何と言っても音楽だ。とにかく音質がいい。録音機器の性能もあるだろうが、プロのエンジニアでもない写真家に、これだけの録音が可能だったとは驚きである。

作中に流れるサウンドはすべて聞き逃せない。とりわけ貴重なのが、セロニアス・モンクとホール・オーヴァトンによるリハーサルの記録だ。

名演として語り継がれ、レコード発売もされた「セロニアス・モンク・オーケストラ・アット・タウン・ホール」。その創造プロセスが、ピアノを介した二人の会話やスナップ写真を通して体感できるのだ。

スミスが撮ったのは、ジャズメンの写真だけではない。部屋の窓から撮影したマンハッタンの風景スナップ。サルヴァドール・ダリなど著名なアーティストの写真もある。そこには、スミスらが生きた時代の空気まで写り込んでいて、これらの写真を眺めるだけでも、本作を見る価値はあるだろう。

終盤、映画は、第二次世界大戦で従軍カメラマンとして撮った戦場でのスナップ、復員後に息子と娘をモデルに撮った名作「楽園への歩み」と、スミスのキャリアを辿りながら、スミスおよびロフトの歴史を締めくくる。

今も残っているというこのビルを、いつか訪ねてみたいものである。

映画レビュー「ジャズ・ロフト」

ジャズ・ロフト

2015、イギリス

監督:サラ・フィシュコ

出演:サム・スティーブンソン、カーラ・ブレイ、スティーヴ・ライヒ、ビル・クロウ、デイヴィッド・アムラム、ジェイソン・モラン、ビル・ピアース(以下、写真/声のみ)セロニアス・モンク、ズート・シムズ、ホール・オーヴァトン

公開情報: 2021年10月15日 金曜日 より、Bunkamura ル・シネマ他 全国ロードショー

公式サイト:https://jazzloft-movie.jp

コピーライト:© WNYC, All Rights Reserved

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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