外国映画

映画レビュー「イタリアは呼んでいる」

2021年6月19日
美食と絶景とアバンチュール。お楽しみ満載のイタリア旅行だが、そこには人生を折り返した男たちの哀愁もにじむ。

即興演技がリアルな英国男2人旅

※「グリード ファストファッション帝国の真実」公開中のマイケル・ウィンターボトム監督作品「イタリアは呼んでいる」(2014)公開時に書いたレビューを、一部加筆した上で掲載します。

イタリアの北から南まで、高級ホテルや一流レストランを巡る旅――。英国ショービズ界の人気者2人のもとに、文字どおり“おいしい”仕事が舞い込む。

以前、2人が英国の湖水地方を旅して書いたグルメ記事が好評だったので、その第2弾をというわけだ。陽光あふれるイタリアの景勝地、豪華なホテルと美味い料理、そして、アバンチュールも……。

断る理由は何もない。一も二もなく引き受けた2人は、黒のミニクーパーを走らせ、イタリア半島縦断の旅へと出る――。

主演は、スティーヴ・クーガンとロブ・ブライドン。ともに英国を代表する俳優・コメディアンである。この2人が本人役で出演する。

ジョーク、毒舌、モノマネ……。ドライブの間も、食事中も、ひっきりなしに喋り続ける2人。モノマネ合戦では、マイケル・ケイン、アル・パチーノ、マーロン・ブランドなど、名優たちそっくりな声音を競い合い、爆笑を誘う。

プライベートでもこんな感じなのだろうか。ぴったり息の合った2人の即興的な掛け合いが楽しい。

中盤まで、お楽しみ満載のイタリア旅行に浮き立つ男たちの、はしゃいだ感じが画面にあふれる。料理が運ばれてくれば「グラッツィエ!」、美味に舌鼓を打っては「ラブリー!」。若い女性とのロマンスなどもあり、見ているこっちまでウキウキした気分にさせられる。

だが本作は、ただ能天気に観光を楽しむ男たちを描いただけの映画ではない。もともと仕事や私生活に悩みを抱えていた2人。気の置けない親友と愉快な時間を過ごす一方で、彼らは自分自身を見つめ直し、本来の自分を取り戻していく。

そこには、人生を折り返した男たちの哀愁がそこはかとなく漂う。その姿が見る者の心に沁みるのは、2人の演技が限りなく真実味をたたえているからだ。

“フィクション”なのか“リアル”なのか。虚構と現実の境目が曖昧なところは、マイケル・ウィンターボトム監督の真骨頂と言えるが、実生活でも親友同士の2人をキャスティングしたことで、その特徴がより強く出ているのかもしれない。

イタリアは呼んでいる

2014、イギリス

監督:マイケル・ウィンターボトム

出演:スティーヴ・クーガン、ロブ・ブライドン、ロージー・フェルナー、クレア・キーラン

公式サイト:http://www.crest-inter.co.jp/Italy/

コピーライト:© Trip Films Ltd 2014

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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