夫の出張中にガミは3人の女友だちと再会。「愛する人とはいつも一緒にいるべき」という確信がぐらついていく。

崩れゆく結婚幻想

ソウルで花屋を営むガミは、夫が出張で不在になる数日間を利用して、郊外に住む年上の友人たちを訪ね、旧交を温める。

一人目は、バツイチで今は同性のルームメイトと暮らすヨンスン。不幸な結婚生活から解放され、今は自由気ままな日々を送っている中年の女性だ。

互いに近況を報告し合うが、ヨンスンの話に現実の生々しさがあるのに比べ、ガミの話にはリアリティが乏しい。「夫とはいつも一緒。離れたのは今回が初めて」「毎日が楽しい瞬間ばかり」。そう言うわりには、表情に晴れやかさがない。

ヨンスンが「別れた夫とは毎日会うのも苦しかった」と溜息をつくのとは対照的だ。どことなく得体の知れないところがある。

おそらく、そこがこの映画の狙いなのだろう。パッと見の印象は平板な会話劇。だが、ホン・サンス監督の作品に油断は禁物である。水面下で何かが起きている。

ガミが次に訪ねるのは、既婚者と恋愛中の、こちらも中年女性のスヨン。ピラティスのインストラクターをしながら、既婚者と恋愛したり、若い男とワンナイトラブを楽しんだりと、思い切り人生をエンジョイしている。

ヨンスンのときと同様、「夫とは結婚して5年間一度も離れたことがない」と語るガミだが、「本当に愛しているの?」とスヨンに問われると、「さあ、分からない」と曖昧になる。ガミの心に明らかな異変が起きている。

最後に会うのは、カルチャーセンターで働く同世代のウジン。偶然の再会である。ピリリと緊張感が漂う。二人には因縁があった。かつて二人は一人の男を争うライバル同士だったのだ。ウジンの夫はガミが昔付き合っていた男で、大学の恩師だったらしい。

ガミはここでも、夫との結婚生活を暗記したセリフのように語る。「結婚以来一度も離れたことがない」「愛する人とはいつも一緒にいるべき」。

だが、それは果たしてガミの本心なのだろうか。無理やり自分に言い聞かせているのではないか。疑念はさらに膨らむ。そしてガミは、最後に思いがけない行動に出る。

閉じた生活の中で培養された主人公の結婚幻想が、旧友たちとの再会によって崩壊していく――。恐るべき内面のドラマが淡々と描かれ、深い余韻を残す。ホン・サンスの卓越した演出力に感服させられる。

『逃げた女』(2020、韓国)

監督:ホン・サンス

出演:キム・ミニ、ソ・ヨンファ、ソン・ソンミ、キム・セビョク、イ・ユンミ、クォン・ヘヒョ、シン・ソクホ、ハ・ソングク

2021年6月11日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺他全国ロードショー。

公式サイト:https://nigetaonna-movie.com

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