インタビュー・会見日本映画

「ももいろそらを」小林啓一監督 単独インタビュー

2019年11月19日
2035年。大人になったヒロインが過去を振り返る。「“現在はすぐに過去になる”というテーマを、モノクロ映像で表現した」

現在(いま)はすぐ過去になる

※新作「殺さない彼と死なない彼女」が公開中の小林啓一監督による長編デビュー作「ももいろそらを」(2011)公開時に書いたインタビュー記事を、一部加筆した上で掲載します。

女子高生のいづみは、ある日、大金の入った財布を拾う。落とし主はひとつ年上のイケメン男子。下心丸出しの友だちに促され、財布を返しに行くのだが――。

16歳の少女たちの青春のひとときを美しいモノクロ映像で切り取った「ももいろそらを」。第24回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」で作品賞、第50回ヒホン国際映画祭では日本映画初のグランプリに輝いた話題作だ。小林啓一監督は、「“現在(いま)はすぐ過去になる”というテーマを、モノクロ映像で表現した」と語った。

モノクロ映像は世界を抽象化する

――映像作家としてのキャリアは長いが、劇場映画は本作が初めてですね。

これまで下請け仕事ばかりしてきた。その中で、他人から求められるものと、自分のやりたいものとのギャップが広がり、不満がたまっていた。しかし、ぐずぐず文句を言っていても始まらない。現状を打ち破るには、自分で映画を作るしかないと思った。

――最初に2035年という文字が画面に出ます。

大人になったヒロインが過去を振り返るという設定にしている。今の40歳の人も、50歳の人も、若い頃はみんなこうだったということが言いたかった。

――誰もが経験する青春のひとときが鮮やかに切り取られているように思いました。

そう。ただ、それは懐かしいということではなくて、その感情のままずっと生きてきているということ。その頃の悩みを今も抱え続けている。人間は年をとってもあまり変わらない。そういうことを表現したいと思った。

――音楽を使用しなかったのも、ノスタルジックにしたくなかったからですか。

効果面のことはあまり考えていなかった。ドキュメンタリーふうにヒロインの行動を追いかけていくという作り方なので、いきなり音楽が流れてきたらおかしい。だから、音楽は使わなかった。

――モノクロ作品として仕上げたのは何故でしょう。

“現在(いま)はすぐ過去になる”というのが本作のテーマ。そのテーマを表現するにはカラーよりモノクロがふさわしいと思った。カラーにすると映像がすーっと流れていってしまう。ヒロインのいづみが話す言葉も素通りされてしまうおそれがある。しかし、モノクロにすると世界が抽象化され、いづみの言うことにも耳を傾けてもらえるのではないかと考えた。

――手持ちカメラによる透明感あふれる映像が素晴らしい。撮影もご自分で担当していますね。

低予算で製作しなければいけないので、できる範囲のことは自分たちでやろうと。演出は監督、撮影はカメラマンという分業システムに慣らされていて、初めはちょっと抵抗があった。しかし、その意識を変えないと、人の心を動かす作品は生み出せないと思った。

――撮影にはどれくらい時間をかけたのでしょうか。

5、6人のスタッフで、2カ月くらい。10月下旬にスタートして12月下旬に終わった。途中にいづみ役の池田愛ら3人の学校の定期試験が挟まったので、実質的には45日。彼女たちが通っていたのは芸能に寛容な高校だったが、試験期間だけは中断せざるを得なかった。

電車の中の女子高生の会話を参考に

――3人とも素人同然の女優だそうですが、演出上の苦労は。

テレビなどを見て演技とはこういうものだという先入観があり、妙な演技モードに入るので困った。2、3カ月のリハーサルをして、ようやく癖が抜けた。リハーサルでは通常の2倍速くらいの早口で喋る訓練をして、本番ギリギリで早口をやめさせた。それで、ようやく普通に喋れるようになった。

――いづみ役の池田愛はオーディションで選んだのですか。

脚本を読んで気に入ってくれた事務所と組むことになり、そこから紹介してもらった。だからオーディションはしていない。少しぐらいイメージと違っていても、役柄に染め上げてしまえばいいと思った。そのための時間はたっぷりあった。長かった髪を短くカットしてもらったら、いづみのイメージにかなり近づいた。

――いづみと彼女の友だちの会話や喋り方がリアルですね。

会話は電車の中などで女子高生の話を聞いて参考にした。喋り方については、基本的に女子高生と僕たちの間にそれほど差はないと思っている。ふだん友だちと話しているときの喋り方は、高校生だった昔のままだし、今の女子高生と比べてもあまり変わらない。セリフを書くときは、ことさら女子高生というのは意識しなかった。

――印刷屋のおじさんと会話するときの、いづみの口調は「男はつらいよ」の寅さんの真似ですか。

いづみのべらんめえ口調は、彼女が寅さんのファンだという設定。若い頃は、自分が「いいな、面白いな」と思ったものに同化しようとする傾向がある。それで、いづみも寅さんにかぶれていることにした。そもそもは、僕が寅さんのファンだということもある。いづみの部屋に寅さん映画のポスターでも貼っておく手もあったが、そこまでやるのは野暮だと思った。

若い人に生きる自信や勇気を持ってほしい

――いづみが日課として新聞記事を採点するというアイデアはどこから。

インターネットで社会に対していろいろと批判している人たちがいる。そういう現象を映像で効果的に分かりやすく表現できないかと考えていて、新聞を採点するというアイデアを思いついた。

――手持ちカメラによる全編ロケ撮影、自然な演技、ラストのオチの付け方などに、ヌーヴェルヴァーグの作品と共通するエスプリを感じました。

ヌーヴェルヴァーグの作品は好きだ。カメラワークやカットつなぎがかっこよく、映像に品がある。そういったところは少し影響されたかもしれない。

――この作品をどういう人たちに見てもらいたいと思いますか。

若い人たちに見てもらいたい。台北映画祭に参加したとき、現地の女子高生が「この映画を見てがんばろうと思った」と言ってくれた。東京国際映画祭でも「若い頃にこの映画を見ていたら救われていたかもしれない」という人がいた。高校生や大学生が見て、生きる自信や勇気を持ってもらえるとうれしい。

ももいろそらを

2011、日本

監督:小林啓一

出演:池田愛、小篠恵奈、藤原令子、高山翼、桃月庵白酒

コピーライト:© 2012 michaelgion All Rights Reserved.

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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