あらゆる市民に開かれたニューヨーク公共図書館。そのアグレッシブな営みは民主主義の実践そのものと言えるだろう。

世界一有名な図書館の舞台裏

ヌーヴェルヴァーグ左岸派の映画作家、アラン・レネが「世界の全ての記憶」でパリの国立図書館を撮ったのは1956年だった。16世紀以降の国内出版物をすべて収める“知の殿堂”。その全容を、職員たちのルーティンワークを追いつつ明らかにして見せた同作は、図書館が膨大な知識の入れ物であることを、強烈に印象づけるものだった。

それから60年。図書館はその守備範囲を広げ、単に蔵書を閲覧するだけの場所ではなくなった。講演会、コンサート、パソコン教室……。実に多種多様な機能を備えてきている。中でも、最も先進的な取り組みを行っているのが、ニューヨーク公共図書館だ。

フレデリック・ワイズマン監督の「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」。本作は、同図書館の利用現場はもちろん、スタッフたちが働く舞台裏まで、12週間もの時間をかけて撮影した、渾身の長編ドキュメンタリーである。

ニューヨークという土地柄もあるのだろう。同図書館の利用者は人種も職業もさまざま。作家や文化人もいれば、市井の人々もいる。そのニーズは多岐にわたる。

同図書館では、それぞれのニーズに応じて、さまざまなサービスを提供している。たとえば、経済的事情で十分な学習機会を得られない児童に対しては、教育プログラムを実施。中国系住民のためには独自のパソコン講座を開き、視覚障碍者には、点字の読み方や打ち方などを指導している。弱者へのサービスが充実しているのだ。

インターネットで多くの情報にアクセスできる今日、図書館を訪れる必要性が薄れているという現実もある。しかし、それを危機とはとらえず、蔵書のデジタル化を推進して利用者の拡大を図ったり、電子図書を増やしたりすることにより、同図書館の進化に結び付けているのである。

こうした施策を講じるにあたっては、スタッフたちが熱い議論を戦わす。

ベストセラーと推薦図書。いずれを購入すべきか――。来館者が嫌がるホームレス。どう対応すべきか――。簡単には結論の出ない問題について、まなじりを決して語り合うスタッフたちの姿は、本作の中でも最もエキサイティングな映像かもしれない。

あらゆる市民に開かれたニューヨーク公共図書館。デジタル化、ネットワーク化により、さらに世界中に開いていこうとする同図書館のアグレッシブな取り組みの数々に、図書館の未来像が見えてくる。

知識は、一部の支配層ではなく、すべての人々に共有されるべきである。知識の共有こそは、民主主義の条件だからである。

ワイズマンが205分もの長尺を費やして克明に記録したニューヨーク公共図書館の営みは、まさに民主主義の実践そのものと言えるのではないだろうか。

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』(2017、アメリカ)

監督:フレデリック・ワイズマン

2019年5月18日(土)より、岩波ホール他全国ロードショー。

公式サイト:http://moviola.jp/nypl/

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