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第31回東京国際映画祭 最高賞は「アマンダ」、観客賞は「半世界」

2018年11月12日
第31回東京国際映画祭で、フランス映画「アマンダ」が最高賞のグランプリを、稲垣吾郎主演の「半世界」が観客賞を受賞した。

テロで壊された人生の再生描く「アマンダ」

審査員の全員一致でグランプリが決まったという「アマンダ」。パリで暮らす主人公の青年ダヴィッドが、テロで姉を失い、遺児となったアマンダの親代わりを引き受けることになる物語だ。

“便利屋”をしながら、気ままな一人暮らしをしていたダヴィッド。突如として人生の難題に直面させられる。

付かず離れずの関係を保っていた姉。その一人娘であるアマンダは、ダヴィッドにとって可愛い姪には違いない。だが、それは、あくまで叔父と姪という距離のある関係だったはずだ。

しかし、その距離は一気に縮まる。いや、縮めざるを得なくなる。何しろ、7歳の小学生であるアマンダが頼れるのは、ダヴィッドしかいないのだ。無責任な生き方はもう許されない。

 

ダヴィッドは、つい最近、恋人ができたばかりでもあった。その恋人もテロで負傷し、入院してしまった。

ダヴィッドとしては、晴天に雷鳴が轟き、突然の豪雨に見舞われたような気分だったろう。そんなダヴィッドが、いかにして難局を切り開いていくか。

映画は、大げさな感情表現を避けながら、一人の青年の人間的成長を繊細に描き出していく。

アマンダと向き合うことで、自分を見つめ直し、大人の男へと成長していくダヴィッド。悲しみをこらえながら、ときにダヴィッドを励まし、勇気づけるアマンダ。

大人と子供、保護者と被保護者という関係を超え、二人は相互に力を与え合う。試行錯誤しながら、ともに前進していく姿が清々しい。

ダヴィッド役は、「いかしたガキども」(2009)や「ヒポクラテス」(2014)の若手スター、ヴァンサン・ラコスト。恋人のレナ役は、「グッバイ・ゴダール!」(2017)でアンヌ・ヴィアゼムスキーに扮したステイシー・マーティン。

そしてアマンダ役には、本作が映画初出演のイゾール・ミュルトゥリエ。ミカエル・アース監督によると、子供っぽさがある一方で、思考が成熟しているミュルトゥリエは、アマンダ役にぴったりだと思い、キャスティングしたとのこと。

内面の感情を素直に表現できるミュルトゥリエと、やはり自然体の演技を身上とするラコストとの相性は抜群。二人の絶妙なコンビネーションが、本作の成功に大きく与っていることは言うまでもない。

本作は最優秀脚本賞(ミカエル・アース、モード・アメリーヌ)も受賞。2019年初夏に日本公開が予定されている。

稲垣吾郎の好演光る「半世界」

「半世界」は、地方の町で炭焼き職人として生計を立てている紘が、旧友との再会をきっかけに家族や人生を見つめ直し、新たな一歩を踏み出す物語。

自衛隊を除隊し、久しぶりに帰郷した瑛介。地元で自営業を営む光彦。中学の同級生である二人と旧交を温める中で、紘の家庭の問題や彼自身の課題が浮かび上がってくる。

乏しい収入をやりくりしながら息子の明を立派な学校に進学させようと頑張っている妻の初乃。学校で不良グループから苛められている明。職人気質の紘は、彼らの苦労や悩みなど、想像もできない。

腕のいい職人ではあるが、夫や父親としては失格。そんな紘を親友の瑛介と光彦がサポートする。損得勘定などない、男同士の友情に心打たれる。

とりわけ赴任地での過酷な体験がトラウマとなっている瑛介が、紘の代わりに明を鍛え、窮地から救い出す姿は感動的だ。

瑛介役に、長谷川博己。光彦役に、渋川清彦。妻の初乃役に、池脇千鶴。いずれも演技派で鳴らす実力者たちを向こうに回し、紘役の稲垣吾郎が目を見張る好演を見せている。

「十三人の刺客」(2010)で悪役を完璧にこなし絶賛を浴びた稲垣だが、今回もイメージとは対極の役柄に挑んだ本作での演技によって、また俳優としての評価を一層高めることになるだろう。

2019年2月に公開予定。

アマンダ

2018、フランス
監督:ミカエル・アース
出演:ヴァンサン・ラコスト、イゾール・ミュルトゥリエ、ステイシー・マーティン
「アマンダ」公式サイト:https://mk2films.com/film/amanda-2/(フランス語)

半世界

2018、日本

監督:阪本順治
出演:稲垣吾郎、長谷川博己、池脇千鶴、渋川清彦
「半世界」公式サイト:http://hansekai.jp/

第31回東京国際映画祭公式サイト:https://2018.tiff-jp.net/ja/

コピーライト:© 2018TIFF、© Nord-Quest Films(「アマンダ」場面写真)、© 2018「半世界」FILM PARTNERS(「半世界」場面写真)

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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