権力に立ち向かう女性記者の孤軍奮闘を描く、森達也監督の新作ドキュメンタリー。日本映画スプラッシュ部門で上映された。

権力に立ち向かう女性記者

メディアと権力との関係をリアルに描き、大ヒットした「新聞記者」(2019)のノンフィクション版である。同作品の原作者である東京新聞社会部記者・望月衣塑子の取材活動を、「A」(1998)、「FAKE」(2016)の森達也監督がカメラに収めた。

ドキュメンタリーだから当たり前だろうが、「新聞記者」を包んでいたオブラートは剥がされ、誰もが知る事件やスキャンダルが、望月の取材を通して、次々とスクリーン上に晒されていく。テレビでは見られなかった映像だ。

辺野古基地移設に伴う埋め立て工事による海洋汚染。元TBSワシントン支局長による純強姦事件のもみ消し疑惑。そして、モリカケ問題。籠池夫妻、前川喜平氏、菅官房長官など、渦中の人物たちも登場する。

真相を究明すべく、すべての問題に真っ向からぶつかっていく望月。官邸記者会見では、何度も同じ質問を繰り返し、官房長官をイラつかせる。

その結果、望月は要注意人物としてマークされ、質問妨害まで受ける。だが、そんな望月を、援護しようとする記者は一人もいない。

真相を明らかにするのは記者の使命だ。望月は特別なことをしているわけではない。なのに、なぜ望月だけが目立つのか。孤立してしまうのか。森達也監督のもどかしい思いが伝わってくる。

質問をはぐらかす。とぼける。嘘をつく。邪魔者は社会から葬り去る。小泉政権の頃から、こういうことが目立ち始めたように思う。そのスピリットを受け継いだ現政権で、その傾向はいよいよ強まっている。

望月のような記者が続々と現れない限り、国民はこれからも国に騙され、虐げられ続けるに違いない。いま必要なのは、第二、第三の望月記者。その出現を阻んでいるものがあるとすれば、それは何だろう。

世界報道自由度ランキングで、日本は180国中67位。先進国中ダントツの最下位だ。過去には10位台だった時期もある。第二次安倍政権以降の凋落が著しい。

一体、メディアで何が起きたのか。何が変わったのか。すべての人がこの映画を見て、考えてほしい。

『i―新聞記者ドキュメント―』(2019、日本)

監督:森達也
出演:望月衣塑子

2019年11月15日(金)より、新宿ピカデリー他全国ロードショー。

公式サイト:https://i-shimbunkisha.jp/

コピーライト:©2019『i―新聞記者ドキュメント―』

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