日本映画

映画レビュー「ヘヴンズ ストーリー」

2018年7月7日
家族を殺され復讐心に燃える少女。家族の仇を討つと宣言した男。少女の思いは、やがて男の運命を狂わせる。

殺人者と復讐者をめぐる壮大なドラマ

※新作「菊とギロチン」が公開中の瀬々敬久監督作品「ヘヴンズ ストーリー」(2010)公開時に書いたレビューを、一部加筆した上で掲載します。本作は今年12月にアンコール上映の予定です。

両親と姉を殺された少女、サト。妻と娘を殺された若い男、トモキ。トモキの妻と娘を衝動的に殺した少年、ミツオ。正当防衛で人を殺した警官、カイジマ。父親の暴力で片耳の聴力を失った若い女、タエ。アルツハイマーに冒された人形作家、恭子――。

いずれも過酷な現実を生きる人物たちが、さまざまな形で出会い、絡み合い、結び付くことで、想像を絶する物語が展開していく。

実在の少年犯罪事件をモチーフに、復讐する者、復讐される者たちの凄絶な運命を描いた「ヘヴンズ ストーリー」。全9章、4時間38分の大長編である。中心を成すのは、サトとトモキによる復讐劇だ。

8歳のとき、両親と姉を殺されたサト。激しい復讐心が湧き起こる。しかし、犯人は自殺してしまった。「私が殺す人は死んで、もういない」。サトは絶望に陥る。しかし、そのとき、サトの運命を変える男が出現する。

少年に妻と娘を殺された男、トモキ。テレビの画面に映し出されたトモキは、こう語った。「たとえ法律が彼を守っても、僕がこの手で殺します」。

自分の代わりに復讐してくれる人がいる。そう思った瞬間、サトは思わず失禁してしまう。トモキはサトの“ヒーロー”となった。以来、サトはトモキがミツオを殺す日を心待ちにしながら生きていく。

8年後。ミツオが刑務所を出た。にもかかわらず、トモキがミツオを殺したという報道はない。トモキは復讐を果たしていない。サトはトモキを訪ね、問い詰める。「殺すんじゃなかったんですか?」。

突如として現れた見知らぬ少女の詰問にトモキはうろたえる。タエという女と再婚し、子供ももうけ、幸せに暮らしているトモキに向かって、「今が幸せだからいいんですか?」。

容赦ない追及にトモキは圧倒される。逡巡の末、覚悟を決めたトモキは、サトとともに“標的”であるミツオに接近して行く――。

復讐をめぐる映画。しかし、復讐の是非を問う映画ではない。作中の言葉を借りるなら、殺人という“怪物”に遭遇してしまった者は、その怪物とどう向き合い、どう付き合っていったらよいのか。

そのことを、二人の復讐劇および彼らに関わる人々の行動を通して考えさせる、そんな映画である。

廃墟や渡し舟など異色のロケ地を舞台に、1年間にわたって撮影したという季節感あふれる映像が素晴らしい。

また、実人生での1年間の成長を演技に反映させ、鮮烈な印象を残したサト役の寉岡萌希をはじめ、トモキ役の長谷川朝晴、恭子役の山崎ハコなど、個性的な俳優たちの味わい深い演技も見ものだ。

ヘヴンズ ストーリー

2010、日本

監督:瀬々敬久

出演:寉岡萌希、長谷川朝晴、忍成修吾、村上淳、山崎ハコ、菜葉菜

コピーライト:© 2010ヘヴンズ プロジェクト

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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