外国映画

映画レビュー「ジョン・レノン 失われた週末」

2024年5月8日
「ジョンと浮気して」。ジョンとヨーコの個人秘書だったメイ・パンにヨーコから指令が下った。他の女を遠ざける目的だったが――。

ヨーコと離れた18カ月の真実

熱心なビートルズ・ファンには周知の事実だろう。ジョン・レノンとオノ・ヨーコは一時別居していた時期がある。1973年の9月から1975年の2月までの18カ月。

「失われた週末」と呼ばれるこの時期、ジョンは一体何をしていたのか。ともに過ごしたメイ・パンとはどんな女性だったのか。ずっと曖昧なまま、詳しく語られることはなかった。

本作は、ベールに覆われたこの18カ月間の真相を、ジョンとともに過ごしたメイ自身が明かしていくドキュメンタリーである。

ニューヨークのスパニッシュ・ハーレムで生まれ育った中国系アメリカ人のメイ。ロックンロールに夢中となって、大学は中退し、音楽業界に就職。ジョンとヨーコに気に入られ、個人秘書となった。

映画撮影や新曲のレコーディングなどを手伝いながら、二人の信頼を深めていたメイだが、ある日、ヨーコから指令が下る。それは「ジョンと浮気をしてほしい」という驚くべきオーダーだった。

当時、ベトナム反戦運動の先頭に立ち、ニクソンから目の敵にされていたジョン。ストレスが重なっていたこともあり、女性関係にはけ口を求め、ヨーコを悩ましていた。

何とかジョンの浮気を封じたい。そんな思いから、ヨーコはメイをジョンに密着させ、他の女を遠ざけようとした。よもや二人が本気になるとは夢にも思わなかったのだ。

ほどなくして二人はニューヨークを離れ、ロサンゼルスへと旅立つ。ジョンにとってもメイにとっても、刺激と創造性に満ちた、かけがえのない日々が始まる――。

ヨーコという重しが取れたことで、ジョンは自由を手にし、ミュージシャンとしての活動も活発化させる。リンゴ・スターやキース・ムーンら気の置けない仲間と過ごし、エルトン・ジョンと共演。疎遠だったポール・マッカートニーとも久しぶりに会った。さらに、前妻・シンシアとの息子・ジュリアンとも再会を果たす。

鬼の居ぬ間に何とやら。待っていましたとばかり多くの友人がジョンのもとに集まってきた。

アンチ・ヨーコ的なムードは本作の全編にあふれている。テレビ番組に出演したジョージ・ハリスンが、「そこにはヨーコも座ったよ」と司会者に言われ、慌てて席を立つ。そんなユーモラスな映像も出てくる。

全編にわたり貴重な映像や画像がぎっしり詰まっていて、一カットたりとも見逃せない。メイとの愛の生活やエピソードを描いたジョンのスケッチ風イラストも必見だ。

さまざまな人物が登場し、証言を残していくが、ナレーターとして物語を紡いでいくのは、あくまでメイ・パンだ。これまで声を発する機会のなかったメイが、一時期ではあるがジョンを独占し、愛し合った女性として、存分に思いの丈を語り尽くす。

これまで、晩年のジョンはヨーコとセットで語られることが多かったが、実はメイ・パンと過ごした18カ月が存在した。当事者であるメイによって書き足されたジョン・レノンの伝記が、このような形で見られることは、ロックファンにとって実に幸せなことだと思う。

ジョン・レノン 失われた週末

2022、アメリカ

監督:イヴ・ブランドスタイン、リチャード・カウフマン、スチュアート・サミュエルズ

出演:メイ・パン、ジョン・レノン、ジュリアン・レノン、ポール・マッカートニー、デヴィッド・ボウイ、エルトン・ジョン

公開情報: 2024年5月10日 金曜日 より、角川シネマ有楽町、シネクイント、新宿シネマカリテ、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺他 全国ロードショー

公式サイト:https://mimosafilms.com/lostweekend/

コピーライト:© 2021 Lost Weekend, LLC All Rights Reserved

配給:ミモザフィルムズ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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