外国映画

映画レビュー「プリシラ」

2024年4月11日
14歳の少女プリシラがエルヴィスと恋に落ちる。夢のような毎日。しかし、エルヴィスの愛は彼女を縛り、苦しめるようになる。

エルヴィス色に染められていく

プリシラ。エルヴィス・プレスリーの妻となった唯一の女性。軍人の父親が転属した西ドイツで暮らしていたが、兵役で当地に赴任していたエルヴィスに紹介され、相思相愛の仲になった。

とは言え、プリシラはまだ14歳の少女。両親は二人の交際に難色を示す。だが、エルヴィスの誠実な態度は両親を動かし、めでたく二人は交際を許可された。

プリシラにとって夢のような毎日が続く。亡くなった母親への思いや、俳優マーロン・ブランドへの憧れなど、エルヴィスは自らの心の内をプリシラに打ち明ける。そんなエルヴィスの気持ちにプリシラはやさしく寄り添った。

しかし、時は非情なもの。除隊の時がやってくる。エルヴィスは帰国し、音信が途絶える。失意の生活を送るプリシラだったが、2年後に突然、エルヴィスから「会いたい」と電話がかかってくる。

エルヴィスが手配してくれたチケットでメンフィスに飛んだプリシラ。彼女を待っていたのは、宮殿のような邸宅と、目くるめく享楽の日々だった。幸福に酔いしれるプリシラだったが、やがてエルヴィスの価値観や女性関係に苦しむようになり――。

エルヴィスと出会い、同居を経て、結婚生活を送る中で、変化していくプリシラの心情を、プリシラの視点から描いた作品だ。プリシラ自身の書いた回想録をもとに、ソフィア・コッポラが監督した。

エルヴィスの心を射止め、恋人となった少女プリシラ。当初は喜びが満面にあふれる。ところが、その笑顔に少しずつ影が差すようになる。

自分の留守中も家庭に閉じ込める。絶対服従を求め、反論を許さない。そんなエルヴィスの態度は、今で言うならDVだろう。控えめに言ってもハラスメント。そして共演女優とのスキャンダル記事。報道を裏付ける証拠も出る。

覚悟を決めてエルヴィスに身体を預けるプリシラに、「“その時”は俺が決める」のセリフも残酷だ。敬虔なプロテスタントのご都合主義。互いの願望ではなく、自分の欲望がすべてなのだ。

髪型から服装まで自分好みに染めていくところは、「めまい」(1958)のジェームズ・スチュアートさながら。プリシラに異論を唱えることなど考えられないのだ。

愛されるためには主張してはならない。プリシラは耐え続ける。だが、限界はやってくる――。

清楚な少女がエルヴィス色に染められ、けばけばしく変身していく。純真無垢だった顔が厚化粧に覆われ、険のある表情を帯びるようになる。プリシラに扮したケイリー・スピーニーの演技が絶品だ。

夢はやがて覚める。幻想は必ず崩れる。60年代を舞台にしたプリシラの物語に心動かされるのは、これが決して過去の有名カップルの恋愛を描いただけのものではなく、今日もなお通用する普遍的な関係や感情をとらえたものだからだろう。

映画レビュー「プリシラ」

プリシラ

2023、アメリカ

監督:ソフィア・コッポラ

出演:ケイリー・スピーニー、ジェイコブ・エロルディ

公開情報: 2024年4月12日 金曜日 より、TOHOシネマズ シャンテ他 全国ロードショー

公式サイト:https://gaga.ne.jp/priscilla/

コピーライト:© The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023

配給:ギャガ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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