外国映画

映画レビュー「パスト ライブス/再会」

2024年4月4日
離れ離れで暮らしながら、24年間も恋心を引きずってきたノラとヘソン。二人はついに再会し、ノラは揺れる心に決着をつける。

感情がどっと噴き出すラスト

少女ナヨンと少年ヘソンは12歳の同級生。互いに恋心を抱く間柄だったが、突然、ナヨン一家がカナダに移住することになる。急な話にヘソンはショックを隠せないが、ナヨンは新天地での生活が楽しみなようだ。気まずさを残したまま、二人は別々の道を歩むことに。

12年後。英語名のノラを名乗り、ニューヨークで劇作家としてのキャリアをスタートさせていたナヨン。何の気なしにSNSで旧友たちの消息を探っているうちにヘソンのことを思い出す。

その名は映画監督である父親のFacebook上にあった。ずっとナヨンを捜し続けていたのだが、ノラと名を変えたナヨンにたどり着けないヘソンは、仕方なく彼女の父親にアクセスしていたのだ。

さっそく連絡を取り、二人はビデオチャットを交わす関係になる。互いに会いたい気持ちが募る。だが、劇作家を目指すノラは、あえてヘソンを遠ざける。再び二人の関係は断絶する。

さらに12年後。ノラは作家のアーサーと結婚している。ヘソンは恋人こそいるが、結婚には踏み切れないでいる。

二人はついに再会する。リアルに会うのは24年ぶりだが、ネットを通して相対し会話も交わしている。だから劇的な再会とはならないはず。しかも、相手は小学校の同級生なのだ。ところが――。

韓国出身のセリーヌ・ソン監督が、自身の実体験をもとに撮りあげたラブストーリー。すれ違いを繰り返しながら、恋心を引きずっていく男女の24年間を描いた作品だ。

ノラ(ナヨン)とヘソンとの関係に焦点が当てられているが、つねに主導権を握っているのはノラである。12年ぶりにヘソンに連絡したのも、突如として別れを告げるのもノラであり、ヘソンに決定権は与えられない。

作家の卵たちが集まる招聘プログラムで出会ったアーサーとの恋をリードし、早々に結婚を決めてグリーンカードを取得したのも、ノラの意志である。

揺るぎない信念をもって決断し、行動していくノラの姿にブレはない。道を選択したら迷わない。後悔しない。よろめかない。

しかし、ヘソンとの再会は、ノラの中に想像もしていなかった感情を呼び起こす。

それは、少女時代に断ち切ったはずの恋心。夫のアーサーは二人の姿を見るなり、ただならぬ空気を察知する。二人きりでのデート。ひとり自宅で待つアーサー。隠せぬ嫉妬心。

三人がバーのカウンターに並び、会話するシーンが秀逸だ。向き合って韓国語で会話するノラとヘソン。カメラは彼らを2ショットで捉えるとともに、1ショットの切り返しでも映し出す。そこに、ひとり弾き出されたアーサーのショットが挿まれる。

アーサーに二人の韓国語は理解できない。一体、何が起きているのか。何が起ころうとしているのか。観客は、三人それぞれの立場を想像し、感情移入することができるだろう。

ラスト。ノラは揺れる心に決着をつける。抑えていた感情がどっと噴き出す。不意を突かれた観客は、あっけなくノックアウトされることだろう。

映画レビュー「パスト ライブス/再会」

パスト ライブス/再会

2023、アメリカ/韓国

監督:セリーヌ・ソン

出演:グレタ・リー、ユ・テオ、ジョン・マガロ

公開情報:2024年4月5日 金曜日 より、TOHOシネマズ 日比谷他 全国ロードショー

公式サイトhttps://happinet-phantom.com/pastlives/

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配給:ハピネットファントム・スタジオ

 

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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