日本映画

映画レビュー「すべて、至るところにある」

2024年1月26日
映画監督のジェイから連絡を受けたエヴァは、東京からバルカン半島に向かう。しかし、到着した先にジェイの姿はなかった。

バルカン半島を巡る愛と祈りの旅

コロナ感染爆発から3年。映画監督のジェイから連絡を受けたエヴァは、東京からバルカン半島の北マケドニアへと向かう。かつてエヴァはこの地でジェイと出会い、映画を撮影したことがあった。いわば思い出の地である。

エヴァはジェイが滞在するはずのアパートに到着する。しかし、ジェイはどこかへと出発した後だった。エヴァはパソコンでジェイのメッセージに目を通しながら、どことも知れぬジェイの行方を追うのだが――。

映画は、北マケドニアを再訪したエヴァが過ごす現在の時間と、エヴァがジェイと過ごした過去の時間、そしてジェイが一人でバルカン半島の都市巡りをする時間とを、並行して描いていく。

美しいモニュメントを眺めながら散策し、川べりで語り合い、撮影をめぐって喧嘩もした。懐かしい思い出が、バルカンの美しい風景とともに甦る。

一方、ジェイと親しかった人たちとの出会いの中で、ヱヴァはジェイが滞在するかもしれない近隣の都市へと足を延ばし、ジェイの意外な過去を知らされる。

時系列は錯綜し、ストーリーの流れを把握するのは決して楽ではない。本作とともにバルカン半島3部作を成す過去作2本が組み込まれた上、その出演者が登場し、リム・カーワイ監督の分身たるジェイやヱヴァと会話するなど、いわゆるメタ構造も取り入れられている。リム監督作品としては、いささか難解な作品と言えるかもしれない。

にもかかわらず、見ていて集中力が切らされることはない。スポメニックと呼ばれる巨大なモニュメントの数々や、ネレトヴァ川にかかる世界遺産・モスタルの橋など、美景、絶景が次々と映し出され、観客の目を酔わせ続けるからである。

スポニックとは戦争記念碑のことで、平和を祈念するために建造されたものだ。二度と悲劇を起こしてはならない。そんな願いを込めてジェイはスポニックに向かい祈りを捧げるのである。

現地の戦争経験者のインタビュー映像が複数回にわたり挿入されている。作品自体は、ファンタジー含みのラブサスペンスといった体ではあるが、バルカン半島に取材したドキュメンタリー映画の性格も帯びている。

彷徨(さまよ)える監督たるリム・カーワイの現在地を指し示した、入魂の一作。

映画レビュー「すべて、至るところにある」

すべて、至るところにある

2023、日本

監督:リム・カーワイ

出演:アデラ・ソー、尚玄、イン・ジアン

公開情報: 2024年1月27日 土曜日 より、イメージフォーラム他 全国ロードショー

公式サイト:https://balkantrilogy.wixsite.com/etew

コピーライト:© cinemadrifters

配給:Cinema Drifters

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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