日本映画

映画レビュー「Fly Me To Minami 恋するミナミ」

2022年11月14日
香港から来た編集者のシェリーン。にわかカメラマンとして同行することになったタツヤ。やがて二人の間に恋心が芽生える。

大阪が舞台の恋物語

※「あなたの微笑み」公開中のリム・カーワイ監督作品「Fly Me To Minami 恋するミナミ」(2013)公開時に書いたレビューを、一部加筆した上で掲載します。

師走の活気あふれる大阪ミナミ。香港から雑誌編集者のシェリーンが取材にやってくる。カメラマンは同行できず、代わりに駆り出されたのは、通訳を務めるナオミの弟で、カメラが趣味のタツヤだった。

最初はお粗末な写真しか撮れず、シェリーンの期待を裏切るが、すぐにコツをつかみ、汚名返上。やがて二人の息は合い、いつしか男と女として惹かれ合う。ところが、ある出来事をきっかけに、誤解が生じ――。

シェリーンとタツヤの爽やかな恋がスタートしたとたん、思わぬ形で水を差すことになるのが、客室乗務員のソルアだ。ソウルで副業のセレクトショップを経営するソルアは、仕入れのため足繁く大阪を訪れては、在日韓国人で妻子持ちのシンスケと逢瀬を重ねている。

泥沼の不倫愛に疲れ、夜のミナミを彷徨っているとき、ソルアは不良グループにちょっかいを出されるが、それを救ったのが、ちょうど通りかかったタツヤだった。

爽やかな好青年だが、不器用なところのあるタツヤ。シェリーンとはカタコトの英語でしかコミュニケートできず、ぎこちなさがいっそう際立つ。

しかし、そのぎこちない感じがまさにタツヤの魅力であり、シェリーンの恋心をくすぐっているように思える。そんなタツヤが、まさかの行動でシェリーンの信頼を裏切ってしまうのだ。

はたして二人はこの危機を乗り越え、ハッピーエンドを迎えることができるのか。問題は、シェリーンの滞在時間が限られていること。大晦日には帰国してしまう。

一方、タツヤはバイトに時間を奪われ、なかなかシェリーンに会えない。やきもきさせた末の、意表を突くエンディングが鮮やかだ。

香港、韓国、日本と、国籍の違う俳優たちが共演し、異なる言語が飛び交う。にもかかわらず、不協和音は響かず、見事なアンサンブルを醸しているのがすごい。どの国にも定住せず、さまざまな国で活動しているリム・カーワイ監督。そのボーダレスな生き方が、作品に反映されているかのようだ。

「マジック&ロス」(2010)に見られた非凡な映像センスが、本作でも光る。ライトアップされた大阪ミナミの街並みが、息を呑むほど美しい。

猥雑な街というイメージを抱きがちだが、本作に映し出されるミナミは、ロマンティックな恋の舞台としての輝きに満ちている。大阪大学に学び、大阪の企業に勤めた経験も持つカーワイ監督の、大阪への強い愛着を感じさせる作品でもある。

Fly Me To Minami 恋するミナミ

2013、日本/シンガポール

監督:リム・カーワイ

出演:シェリーン・ウォン、小橋賢児、ペク・ソルア、竹財輝之助

公式サイト:http://www.flyme2minami.com/

コピーライト:© FLY ME TO MINAMI - 恋するミナミ - All Rights Reserved.

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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