成田結美とピエール瀧の競演
海辺のホテル。脚本執筆で滞在しているのは映画監督の杉田だ。つい眠ってしまい、女性の夢を見る。すると、夢に出てきたその女性が居酒屋に現れた。「夢ではなかった」。興奮した杉田はさっそく自作への出演を持ちかけるが、無視される。
だが翌日、海岸で再会すると、女性は打って変わって愛想がよい。杉田はマリという名のその女性を食事に誘った。話は弾み、酒に酔ったマリは、徐々に警戒心を解いていく――。
4つのパートで構成される本作のパート1にあたる「夢の中の人」は、マリと杉田が急接近する様子が描かれている。
杉田に扮するのはピエール瀧。マリ役には成田結美。アクの強さでたびたび共演者を食ってしまう瀧だが、ここでは成田も負けず劣らず眩いばかりのオーラを放っている。
2ショットで並んでも、向き合って切り返しても、対等に画面を支配し合う瀧と成田。明らかにホン・サンスを意識したであろう飄々としたタッチの中、男女の機微をデリケートに表現していて素晴らしい。
続くパート2では、試写室を訪れたマリが、アフレコ作業を行う。マリは杉田の映画に出演したのだ。しかし、肝心の杉田は不在である。マリはアフレコ作業の途中で感情の安定を失い、試写室を飛び出してしまう。
パート3。街中を歩いていたマリは、失踪した愛猫を探している年配の女性フミコに遭遇し、猫探しを手伝う。結局、猫は見つからないまま、フミコの自宅へ。縁側で横になり、庭を眺めながら、二人は恋愛話に花を咲かせる。
まるで猫のように体をくっ付け、顔に触り、じゃれ合うようにして、二人の女は本音を語り合う。このパートもまた、冒頭のパート同様に、出演者二人の演技レベルが高く、一瞬たりとも目が離せない。特にフミコを演じた松田弘子の、意外なまでの体のしなやかさ、艶めかしさに驚かされる。
そして最後を締めくくるのは、マリがフランスで撮影した監督作品。マリは俳優を辞め映画監督になったのだ。フランス人の男女カップルが、頬に触れ合い、額をくっ付け、そして萩原朔太郎とボードレールのエロティックな詩を朗読し合う。
4つのパートは時系列に沿って配置されているが、それぞれの間には時間の飛躍があり、全体として一点に収斂していくわけではない。むしろ、スタイルも異なる各パートは、マリという女性をテーマにした4編のオムニバスとして味わうべきかもしれない。
それぞれに特有の味がある。とりわけパート1とパート3が逸品だ。ドラマティックな瞬間が描かれているわけでもないのに、なぜか心をざわつかせるものがある。不思議な作品だ。
マリの話
2023、日本
監督:高野徹
出演:成田結美、ピエール瀧、松田弘子、戎哲史、パスカル・ヴォリマーチ、デルフィーヌ・ラニエル
公開情報: 2023年12月8日 金曜日 より、シモキタ - エキマエ - シネマ「K2」 全国ロードショー
公式サイト:https://mari.brighthorse-film.com/
コピーライト:© 2023 ドゥヴィネット
配給:ドゥヴィネット