日本映画

映画レビュー「スキンレスナイト」

2023年9月15日
AV制作会社を経営する加山は、刺激ばかり求める最近の風潮に嫌気がさしていた。そんな加山の胸に、かつて憧れた女の面影が甦る。

監督・望月六郎の自伝的作品

AV(アダルトビデオ)制作会社の社長を務める加山。かつて撮っていたピンク映画からはリタイアし、今は妻子を養うため、心ならずもAV制作に日々を費やしている。

だが、エロよりも情緒を前面に出した作品を志向する加山は、ボンデージなど刺激的なエロを好む最近の風潮に馴染めない。しばしば周囲と摩擦を起こし、相棒の田島や妻の千恵にも迷惑をかけている。そんな加山の胸にかつて恋焦がれた女性の面影が甦る――。

主な舞台となっているのは、90年代初頭の新宿。パルコや東急の渋谷に押され、もはや東京を代表する若者の街とは言えなくなっている。それでも70年代に蓄積された文化はしぶとく残り、加山のような男たちの体にしみ込んでいるようだ。

作中では目黒不動での公演が記録されているが、状況劇場を率いた唐十郎も新宿と縁が深かった。友人たちと唐の芝居を見に行ったり、ラジカセで日本のロックバンド“はちみつぱい”の曲を聴いたりするところに、加山がいかに70年代あたりの文化に感化されているかが窺える。

本作は映画監督・望月六郎の自叙伝的映画だ。主役の加山に扮するのは、映画監督の石川欣。決して滑らかではないセリフ回しが、ニヒルな顔立ちと相俟って、悩める主人公像をリアルに表現し得ている。同業ならではの共感もあっただろう。

AV制作シーンが多いため、撮影現場を記録した映像も実録風で興味深いが、やはり焦点となるのは、加山の恋愛である。成就しなかった恋への未練を断ちがたい加山は、何と結婚し子供までいるその女性の自宅正面にアパートの部屋を借りてしまうのだ。外出する彼女の後をつけ、偶然を装い再会を果たすのだが、その執念と直情径行ぶりに笑ってしまう。

仕事でもそうだが、真情を偽ることができない不器用な男なのだ。そのロマンティックな情熱は時に親しい人間を傷つける。クライマックスは、何度も映画化された「伊豆の踊子」のロケ地として有名な旅館。音信を断って(まだ携帯電話はない)旅館に逗留する加山は人生の再スタートを切ることになる。

実際にピンク映画を撮り、その後AV映画を手がけていた望月六郎の一般映画デビュー作。映画作家として行き詰っている状況への焦燥感、青春の夢に決着を付けられない自分自身への苛立ちや甘えなど、人生の岐路に立つ主人公の姿を、オールロケで臨場感たっぷりに描いた本作は、見事、望月六郎に名監督への道を開いた。デジタルレストア版で32年ぶりのリバイバル上映。

映画レビュー「スキンレスナイト」

スキンレスナイト

1991、日本

監督:望月六郎

出演:石川欣、八神康子、桂木文、佐藤正宏、宮下順子、河原さぶ

公開情報: 2023年9月16日 土曜日 より、新宿k’s cinema他 全国ロードショー

公式サイト:https://skinlessnight.com/

コピーライト:© イースタッフユニオン

配給:フルモテルモ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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