外国映画

映画レビュー「金持を喰いちぎれ」

2023年7月14日
社会の底辺で虐げられてきた貧乏人が、傲慢な金持ちに鉄槌を下す。サッチャー時代の英国を舞台に描く、反骨のロックコメディ。

ロックスターも大量出演

ロンドンの高級レストラン“バスターズ”。黒人でゲイのアレックスはウェイターとして働いていたが、客やマネージャーらの露骨な嫌がらせを受け、ついにはクビとなる。

一夜でホームレスとなったアレックスは、生活保護にすがろうと役所を訪れる。だが、窓口の女は差別心丸出しで、アレックスを見下し、追い払おうとする。カッとなったアレックスはピストルを発砲し、女を殺してしまう。

同じように門前払いを食ったマッチョな失業者とともに、アレックスは逃走。途中でタカ派の内務大臣ノッシュに弄ばれ妊娠したコールガールらを仲間に引き入れ、さんざん自分たちをいたぶって来た金持ち連中への逆襲を企てる――。

アレックスのキャラが強烈だ。馬鹿にされ、痛めつけられても、へこたれず、毒づき、罵りながら、金持ちへの憎しみを反撃のエネルギーに変えていく。まさに下層界のヒーロー。

そのアレックスが復讐の場として選ぶのは、自分をクビにしたレストラン“バスターズ”だ。アレックスと3人の仲間が、どんな方法で金持ちどもを血祭りに上げるのか。その暴れっぷりと、最後の“仕上げ”が最大の見ものである。

アレックスら貧民の仇敵となる富裕層。そのシンボル的存在として登場するのが、上述の政治家ノッシュだ。金持ちを優遇し、貧乏人を冷遇。予算は軍事に注ぎ込み、社会保障費は削減する。社会的弱者は徹底的に虐める。

何やらどこぞの国の政界を風刺しているような映画だが、製作されたのは1987年。サッチャリズムが英国社会を分断し、貧困層を大量に生み出していた時代だ。

89年の日本初公開時はまだ対岸の火事として見られたが、いま見ると、とても他人事とは思えない。その意味では時宜を得たリバイバル公開と言えるだろう。

さて、本作のもう一つの見どころは、モーターヘッドのベーシストにしてフロントマン、レミー・キルミスターがソ連のスパイ役として出演していることだ。ノッシュを失脚させようとハニートラップを仕掛けるが、逆に大衆人気を煽ってしまうなど、行動は空回りだが、密かにアレックスらを支えるなど、重要な役回りを演じている。

本作では音楽も担当しているレミーだが、ベースプレーヤーとしてステージに立つシーンもあり、モーターヘッドのファンには堪らない作品となっている。

レミー以外にも、本作には数々のロックスター、ポップスター、アーティストたちがカメオ出演している。女王も出席する晩餐会で乱闘に巻き込まれる人物は、元ビートルズのポール・マッカートニー。

“バスターズ”から“イート・ザ・リッチ”に改称されたレストランで席を立ちトイレに行くのは、ストーンズのビル・ワイマン。アレックスやノッシュを追いかけるタブロイド紙の記者は、音楽番組のホストとして有名なジュールズ・ホランド。

その他、60年代ロンドンの歌姫サンディ・ショウ、ストラングラーズのギタリストであるヒュー・コーンウェルなど、多くのセレブが顔を見せる。油断していると見逃してしまうので要注意だ。

金持ちと貧乏人との階級闘争を、英国流のナンセンスな笑いに包んで描いたロックコメディ。ロックの魂とも言える反権力の精神が全編に息づく怪作、いや快作である。

映画レビュー「金持を喰いちぎれ」

金持を喰いちぎれ

1987、イギリス

監督:ピーター・リチャードソン

出演:ロナルド・アレン、ジミー・ファッグ、ラナー・ペレー、フィオナ・リッチモンド、サンドラ・ドーン、レミー、ノッシャー・パウエル、ロン・ター

公開情報: 2023年7月14日 金曜日 より、シネマート新宿、シネマート心斎橋他 全国ロードショー

公式サイト:https://bastards-eattherich.jp/

コピーライト:© 1987 National Film Trustee Company Ltd. All rights reserved.

配給:ビーズインターナショナル

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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