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映画レビュー「ラブレス」

2018年4月4日
映画レビュー「ラブレス」
離婚寸前の夫婦。ともに愛人との新生活を待ち望んでいる。孤立した息子は、ある日、突然、姿をくらましてしまう。

愛のない家庭と少年の失踪

ロシアの中産階級に属する3人家族。夫と妻は互いに愛人がおり、一日も早く離婚したいと考えている。ともに自分の快楽や幸福しか眼中になく、一人息子を押し付け合っている。

映画レビュー「ラブレス」

妻は、息子を望んで生んだわけではなかった。婚前交際で妊娠。母親からは中絶を勧められたが、結婚し出産する道を選んだ。

母親から解放されたいという気持ちもあった。今は中絶しなかったことを後悔している。

映画レビュー「ラブレス」

息子への愛情がないのは、夫も同様だ。妊娠中の若い愛人との新生活に、息子は邪魔でしかない。

そんな両親の気持ちに、息子が気づかないわけはない。深く傷ついていることだろう。絶望していることだろう。

映画レビュー「ラブレス」

 

だが、息子は決して両親に、自分の感情を伝えようとしない。自分を疎ましく思っている両親に泣きつくなど、12歳の少年のプライドが許さないのだろう。

弱みを見せたくない息子は、扉の陰に隠れ、声を押し殺して泣く。そんな息子と、すぐそばを通り過ぎながら彼の存在に気づきもしない母親。二人が同時に収まるショットの、何という寒々しさだろう。

映画レビュー「ラブレス」

 

ある意味、虐待よりも残酷な無関心。耐えられなくなった息子は、ある日、突如として姿をくらます。

さすがに慌てた夫婦は、市民ボランティアの捜索隊とともに、息子の行方を追うのだが――。息子が失踪してもなお、エゴむき出しの生き方を変えない二人。その姿は、見るものを荒涼たる気分にさせることだろう。

映画レビュー「ラブレス」

映画は、3人の心の内にはあえて踏み込まず、客観描写だけで“ラブレス(愛のない)”な状況を描き出す。

「ヴェラの祈り」(2007)や「エレナの惑い」(2011)で、夫婦関係の軋(きし)みや歪(ゆが)みを、冷徹にえぐり出してきたズビャギンツェフ監督が、息子という存在を介在させることで、夫婦関係をさらにリアルに追及した作品。2017年カンヌ国際映画祭審査員賞受賞。

『ラブレス』(2017、ロシア・フランス・ドイツ・ベルギー)

監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
出演:マルヤーナ・スピヴァク、アレクセイ・ロズィン、マトヴェイ・ノヴィコフ

2018年4月7日(土)より、新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA他全国ロードショー。

コピーライト:©2017 NON-STOP PRODUCTIONS – WHY NOT PRODUCTIONS

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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