外国映画

映画レビュー「人質 韓国トップスター誘拐事件」

2022年9月8日
韓国映画のトップスターが誘拐された。彼の唯一の武器は“演技力”。極限状態で繰り出す熱演は、凶悪な犯人たちに通用するのか。

ファン・ジョンミンが本人役で熱演

有名な映画スターであるファン・ジョンミンは、ある晩、飲み会の帰り道で、複数の若者たちに絡まれた末、誘拐されてしまう。

犯行に及んだのは、カフェ店主の誘拐殺人事件を引き起こし、警察から追われている札付きのグループだった。

冷酷で躊躇なく人を殺すリーダーのギワン。独裁的なギワンへの不満を募らせているナンバー2のドンフン。ジョンミンの熱烈なファンを自称するお人好しのヨンテ。ギワンの忠実な部下で腕っぷしの強いヨンイク。そして、ドンフンの恋人で紅一点のセッピョルだ。

カフェ店主の事件に巻き込まれ、囚われの身となった女性ソヨンとともに、ジョンミンは山の中のアジトに監禁される。

解放の条件は巨額の身代金だ。指定された時間までに払わなければソヨンともども命を奪われる。現金を引き出すクレジットカードは手元になかった。実はコンビニに置き忘れてきたのだが、ジョンミンは自宅にあると偽って、時間を稼ぐ。

ギワンとヨンイクがカードを取りに外出している間、ジョンミンは、残ったメンバー相手に持ち前の演技力を駆使して、相手を混乱させ、窮状の打開を図ろうとするのだが――。

「新しき世界」(2013)や「国際市場で逢いましょう」(2014)の演技派スター、ファン・ジョンミンが本人役で主演しているサスペンス・アクションである。

犯人たちを欺くため、迫真の芝居を見せるジョンミン。その、まさに入魂の演技が圧巻だ。

拷問と暴力を受けるジョンミンの体がしだいに音を上げ始める。心臓を患っているジョンミンが薬を常用していることは、拉致される前のコンビニの場面で描かれているとおり。だから、ジョンミンが体調を悪化させ苦しむ様子にはリアリティがある。

だが、それは本当にリアルなのか、それともフェイクなのか。犯人たちも判断がつかない。しかし、放置して死なれても困る。逡巡する犯人たち相手に、ジョンミンが見せるまさかの大芝居。うわっ、そこまでやるか!

渾身の演技は功を奏し、ジョンミンはソヨンとともに脱出を果たすが、敵も諦めない。反撃を受けて負傷したセッピョルの仇を討つべく、ドンフンは執念の追跡をかける。

息を切らしながら木々の中を走り抜けるジョンミン。その必死な姿を、一発撮りの手持ちカメラが臨場感たっぷりに映し出す。俊敏なカメラワーク、的確なカット割り。特にカットバックの鮮やかさが際立つ。

それは、このシーンに限ったことではない。ギワンらと警察とのカーチェイスや二転三転するクライマックスの最終戦、そして再びアジトに監禁されたジョンミンと、仲間割れした犯行グループとの、息詰まる神経戦。

極限まで積み上げた緊張感を、一挙に崩して意表を突く。その周到なカットつなぎは、タイミングも構図も完璧。観客はその洗練された演出術にただただ翻弄されるのみだろう。

演技力を武器に窮地を乗り切るというアイデアが、気鋭の監督と熟練の演技者を得て、極上のサスペンス映画へと結晶した。エンターテインメントとはかくあるべしという見本のような映画である。

人質 韓国トップスター誘拐事件

2021、韓国

監督:ピル・カムソン

出演:ファン・ジョンミン、イ・ユミ、リュ・ギョンス

公開情報: 2022年9月9日 金曜日 より、シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷他 全国ロードショー

公式サイト:https://hitoziti-movie.com/

コピーライト:© 2021 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & FILMMAKERS R&K & SEM COMPANY. All Rights Reserved.

配給:ツイン

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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