日本映画

映画レビュー「遠くへ,もっと遠くへ」

2022年8月12日
妻に浮気され逃げられた男。夫に離婚を宣告された女。捨てられた男と女が意気投合。本当の愛を求めて、北へと旅立つ。

捨てられた男と女のロードムービー

太田小夜子は結婚五年目の人妻だ。夫は専業主婦を望んでいるが、小夜子は仕事を続けたい。そのせいか、このところ夫婦関係はぎくしゃくしている。

関係修復のため、夫の趣味である釣りに付き合おうと歩み寄るが、あっさり拒絶された。もう駄目だと観念し、離婚を考える小夜子。さっそく不動産屋を訪ね、一人暮らしの新居を探す。

ところが、担当の設楽洋平は小夜子の左手薬指にはめられた指輪を見逃さず、夫婦用の物件を紹介しようとする。そこで小夜子は離婚を考えていることを告白。洋平は新たに単身用の物件を見つけてくれるが、中国人の客に先を越されてしまう。

残念会ではないが、二人は居酒屋に入った。同年配ということもあり意気投合。大いに盛り上がる。洋平は小夜子が離婚を前提に早々と準備を進めていることにちょっと動揺していた。

実は、洋平には妻に浮気されて逃げられるという辛い過去があったのだ。妻の光子が忘れられない洋平は浮気相手のアパートに乗り込んだが、光子はとっくに姿をくらましていたのだった。

一方、小夜子は先に夫のほうから離婚を宣告されてしまう。かっと頭に血が上った小夜子は、カートに荷物をまとめ、衝動的に家を飛び出す。

向かった先は不動産屋。残業していた洋平にことの次第を話し、洋平の家に転がり込む。洋平は小夜子にキスをしようとする。

だが、小夜子はきっぱりはねつける。「逃げた奥さんを忘れられないうちはダメ」。洋平の部屋には未練がましく光子の服が残っていたのだ。

浮気相手から光子の居所を聞き出した洋平は、同じく独り身の小夜子とともに、妻が住むという栃木県の真岡に向かうが――。

ともに配偶者に捨てられた負け犬カップルのロードムービー。真岡で光子に会えなかった二人は、光子の次の住処と思われる北海道へと渡る。北海道は小夜子の故郷でもあった。いまは母親が一人で暮らしている。

自然豊かな北海道を巡る二人。彼らはようやく光子の現在地に到達する。そして、知ることになる彼女の意外な人生。次々と居場所を変え、男を乗り換えていた光子の素顔は、おそらく観客が想像するのとは全く異なるものではないか。

洋平が惚れるのも、むべなるかな。最初の浮気相手を皮切りに、洋平は妻の光子と関係を持った男たちに、光子との交渉回数を尋ねる。そのたびに落ち込む洋平は、何とも情けなく思えるが、純情で愛すべきキャラとも言える。光子が初めての女だったのかもしれない。

そんな洋平を小夜子はじっと待ち続ける。洋平は自分を選んでくれるという確信があったからだろう。二人は激しく愛し合う。

ヒロインの先祖が住んでいたロシアのほうへ向かって海辺を歩む二人。遠くへ、もっと遠くへ。ヒロインが叫ぶ。

遠くへ,もっと遠くへ

2022、日本

監督:いまおかしんじ

出演:新藤まなみ、吉村界人、和田瞳、川瀬陽太、大迫一平、佐渡寧子、黒住尚生、広瀬彰勇、佐藤真澄、茜ゆりか

公開情報: 2022年8月13日 土曜日 より、新宿K's cinema他 全国ロードショー

公式サイト:http://legendpictures.co.jp/tokuhe/

コピーライト:© 2022レジェンド・ピクチャーズ

配給:ムービー・アクト・プロジェクト 

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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