コラム

マイケル・J・フォックスは「インディアーン!」と叫んだ

2018年2月13日
発見され、指摘され、糾弾されることへの恐れが、ナンセンスな字幕を生む。

先日、久々にDVDで「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3」を再見していて、「そりゃないよ!」と一時停止ボタンを押した。

前半、主人公のマーティ(マイケル・J・フォックス)は、親友のドク(クリストファー・ロイド)を救うため、デロリアンで1955年から1885年へとリープする。
タイムトリップは成功したが、いきなりインディアンの大群に遭遇。びっくりしたマーティは思わず「インディアーン!」と叫ぶ。
誰の耳にもはっきり聞こえる大声。誰にも分かる英語「インディアン」。

ところが、画面下の日本語字幕を見て驚いた。

「ネイティブ・アメリカンだ!」と書いてあるではないか。ありえない!

マイケル・J・フォックスは、思いきり大声で「インディアン」と言っている。なのに、何でわざわざ「ネイティブ・アメリカンだ!」という“誤訳”を付けるのだ。劇場で上映したら、観客席のあちこちから失笑が漏れること必至である。

「インディアン」は差別語。だから「ネイティブ・アメリカン」と言い換えたのだろう。

だが、そもそも1885年という時代に「ネイティブ・アメリカン」という言い方はそぐわない。ましてや「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3」は完成品なのだ。

「ネイティブ・アメリカンだ!」という字幕は、まるでマイケル・J・フォックスのセリフを全否定しているみたいではないか。
こういう字幕が付けられる背景には、差別語の使用に対する過度の警戒心があるように思う。
発見され、指摘され、糾弾されることへの恐れ。ゆえに、差別語は無条件に言い換える。

その結果としての思考停止が、このようなナンセンスな字幕を生むのだろう。

クリーブランド・インディアンスがマスコットキャラクター「ワフー酋長」の使用中止を決定したこととは、全く次元の違う話なのである。

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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