外国映画

映画レビュー「ディナー・イン・アメリカ」

2021年9月23日
警察から追われるパンクロッカーが、内気で孤独な少女と出会う。やがて互いの正体を知ったとき、二人の恋心は最高潮に達し――。

パンク魂あふれるラブストーリー

サイモンは社会の良識や規範に逆らい、他人と衝突ばかりしている厄介な男だ。“逆ナン”してきた女の家に招かれると、母親にちょっかいを出した上、放火事件を起こし、警察に追われることになった。

そんなサイモンを匿(かくま)ってくれたのが、パティという少女だった。内気で人付き合いが下手くそ。ペットショップで働いていたが、要領が悪くクビにされてしまった。

パティとサイモン。ともに社会に適応できない点では同じだが、違うのは、サイモンがバンド活動という自己表現の手段を持っていること。メジャーではないが、コアなファンも付いている。

一方のパティは、短大を中退した後、将来の目標も持たず、何となく日々を遣り過ごしている。唯一の楽しみは、自宅でパンクロックのレコードやカセットテープを聴くこと。“サイオプス”というバンドにご執心で、リーダーのジョンQを熱愛している。

反抗的だがアグレッシブに人生を送っているサイモンに対し、世間から身を隠すように恥ずかし気に生きているパティ。そんな二人が出会ったからと言って、普通なら何も起こらないはず。

起こらないはずのことが起こるのは、一つの事実が発覚した瞬間だった。何と、サイモンこそはパティの愛するジョンQ、その人だったのだ。バンド活動では覆面をしているので、ジョンQの素顔をそれまでパティは知らなかった。

パティが毎週のように送っていたファンレター。そこにはジョンQへの熱い思いを綴った詩とともに、ポラロイドカメラで撮った下半身の写真も入っていた。送り主の顔を思い描きながら、サイモンは密かに興奮していたようだ。

互いに想像のベールを剥がし、改めて男と女として出会い直した二人は、たちまちにして恋愛関係へと突入する。ドラッグ、パンクロック。共通の感覚やスピリットが二人を固く結びつける。

二人一緒なら、怖れるものは何もない。偏見はぶっ飛ばす。卑怯な真似は赦さない。パティを執拗にからかっていた少年たちには、サイモンが指示しパティが繰り出すハニートラップからの激烈な復讐。コミカルかつ痛快なリベンジに、パンクの精神が息づく。

ゲームセンターでのデートでは、プレイに夢中なパティの顔を見つめるサイモンの笑顔がたまらなく優しい。敵意と反感に満ちたいつもの表情とは打って変わったサイモンの、これこそが本当の素顔。パティへの愛があふれる。

クィアなコメディ。そんなテイストで始まった映画は、しだいに高揚感を帯び、幸福感に包まれたラブストーリーへと昇華していく。

恋人であり同志でもあるような、強靭な愛の絆。90年代パンクシーンの精神を鮮やかに具現化した、青春映画の傑作だ。

映画レビュー「ディナー・イン・アメリカ」

ディナー・イン・アメリカ

2020、アメリカ

監督:アダム・レーマイヤー

出演:カイル・ガルナー、エミリー・スケッグス、グリフィン・グラック、パット・ヒーリー、メアリー・リン・ライスカブ、リー・トンプソン

公開情報: 2021年9月24日 金曜日 より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館他 全国ロードショー

公式サイト:https://hark3.com/dinner/

コピーライト:© 2020 Dinner in America, LLC. All Rights Reserved

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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