外国映画

映画レビュー『スイング・ステート』

2021年9月16日
大統領選で敗北した民主党の選挙参謀ゲイリー・ジマー。中西部の田舎町で退役軍人を町長選に担ぎ出し、起死回生を図るが――。

抱腹絶倒の選挙コメディ

民主党の選挙参謀ゲイリー・ジマーは、大統領選でクリントンがトランプに敗れたことに、大きなショックを受けていた。何とかして巻き返しを図りたいゲイリー。ある日、YouTubeで演説する一人の男に目を奪われる。

中西部ウィスコンシン州の田舎町ディアラケンに住む、退役軍人ジャック・ヘイスティングス中佐。冷遇されている不法移民のために声を上げる彼こそは、民主党の救世主になり得る。そう確信したゲイリーはさっそく現地に飛び、来たる町長選への出馬を要請するのだが――。

当初は住民ボランティアによる地道な選挙活動。ところが、対立候補に共和党の選挙参謀フェイス・ブルースターが投入されるに至って、のどかな田舎町の選挙戦は、にわかに民主党と共和党の意地をかけた仁義なき戦いの様相を呈し始める。

政策論争はどこへやら、巨額を投じたCM合戦、互いのスキャンダルを暴露するネガティブキャンペーン。公正でクリーンな選挙とはほど遠い、陰謀とマネーにまみれた狂騒の宴が展開する。そして、訪れる意外な結末。はたして、選挙で勝つのは誰なのか?

全編笑いに満ちたコメディ映画であるが、決して荒唐無稽な作り話ではない。監督は政界の知人らから確認を取った上で脚本を書いたそうだ。つまり、これがアメリカにおける選挙というものの実態なのだ。

それにしても、笑わせてくれる。とりわけ、ゲイリーがワシントンを出発して、ディアラケンに到着し、現地のさまざまな人々と遭遇するまでの導入部は、抱腹絶倒の面白さだ。

現地で運転する車は、BMWの高級車だと反感を買うだろうからと、国産フォードの大衆車にする一方、車内にはステレオ装置を要求し、チャーター機の食事にもうるさく注文を付けるチグハグさ。

庶民を装いながらも無意識に出てしまうブルジョア感は、現地でも遺憾なく発揮される。トイレに入りすぐに出てきたヘイスティングス中佐に「早いな。手は洗った?」なんて言ってしまったり、中佐の娘が牛の尻に腕を突っ込んでるのを見て思わず顔をしかめたり。ゲイリーに扮したスティーヴ・カレルの演技が絶妙だ。

題名の「スイング・ステート」とは、民主党と共和党の支持率が拮抗し、選挙の度に政権が両者を移動する州を指す。スイングする(揺れ動く)州と言う意味だ。

また、ウィスコンシン州はドイツ系移民が多いが、本作でゲイリーが現地到着後に初めて訪れ、宿泊することになるのがビアホールだったり、現町長の名がドイツ語のブラウン(BrownではなくBraun)だったりするのは、この地域特性を踏まえたもの。こういった細かな部分のリアリティにも注目して見てほしい。

映画レビュー『スイング・ステート』

スイング・ステート

2020、アメリカ

監督:ジョン・スチュワート

出演:スティーヴ・カレル、ローズ・バーン、クリス・クーパー、マッケンジー・デイヴィス

公開情報: 2021年9月17日 金曜日 より、TOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイント他 全国ロードショー

公式サイト:https://swingstate-movie.com/

コピーライト:© 2021 Focus Features, LLC. All Rights Reserved

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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