日本映画

映画レビュー「うみべの女の子」

2021年8月19日
本命にフラれ、好きでもない同級生に処女を捧げた小梅。割りきった関係のつもりが、体を重ねるうちに、恋愛感情が芽生えて――。

上半身はどうでもよかった

主人公の小梅は中学2年の女の子。鄙(ひな)びた海辺の町に暮らしている。学校では優等生でもなく、女王的存在というのでもなく、ごく普通の生徒のように見える。

そんな小梅が、好きでもない同級生に処女を捧げてしまう。憧れていた先輩にフラれてしまい、行き場を失った恋愛衝動を、同級生の磯辺にぶつけたのだ。

相手の磯辺は、成績優秀だが、孤独で、つかみどころのない個性的な生徒。小梅に好意を抱いているが、小梅にとっては単なる性欲の対象だ。それなら結構とばかり、磯辺も恋愛感情は封印し、小梅の身体を貪(むさぼ)る。

3年に進級しても、セックス三昧の日々は続いた。「愛のあるセックスなんて幻想だよ」。「磯辺の下半身に会いたい。上半身はどうでもいい」。

だが、ある日、磯辺の部屋でビキニ姿の少女の写真を発見したことから、二人の関係に亀裂が走る――。

どちらかというと童顔で、体つきも幼い少女が、愛のないセックスに溺れていく。そのギャップが衝撃的ではある。一方、恋だの愛だのという免罪符を持たず、ひたすらセックスに邁進する無鉄砲さには、ある種の純粋さ、潔さを感じないでもない。

いっそ、そのまま続けばよかったのかもしれない。しかし、性愛はいつのまにか、恋愛へと変容していた。初めて芽生える嫉妬という感情。体のふれ合いと違って、心のふれ合いは、簡単ではない。

小梅は、意識することなく、磯辺の内面に踏み込んでしまう。そして、想像を絶する磯辺の世界に遭遇し、なおも強く愛し続けるのだ。

もしも、二人の間に愛などという厄介な感情が生まれてさえいなければ、やがて関係は自然消滅し、大人になった二人は、若気の至りとして、懐かしく振り返ることもできたろう。衝動的セックスから始まった初めての恋。それは、少女の心に消え難い傷を残すのである。

愛の残酷さという普遍的テーマを、思春期の少女の出来事として描いた、青春映画の佳作。ヒロイン役の石川瑠華が絶品である。

映画レビュー「うみべの女の子」

うみべの女の子

2021、日本

監督:ウエダアツシ

出演:石川瑠華、青木柚、前田旺志郎、中田青渚、倉悠貴/村上淳

公開情報: 2021年8月20日 金曜日 より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷他 全国ロードショー

公式サイト:https://umibe-girl.jp/

コピーライト:© 浅野いにお/太田出版・2021『うみべの女の子』製作委員会

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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